2011.5.14
ライブ 昭和歌謡ポップス見学記

 今日は相方からの情報に誘われて、片瀬江ノ島の ”虎丸座” なるライブハウスに出かけた。このライブには自分なりのキーワードが揃っていたので楽しみにしていたものである。そのキーワードとは次のような連想である。
 江ノ島→子供の頃の記憶→湘南→GS(グループサウンズ)→エレキベース というものである。
 演奏するバンドは”Rieko & the Secrets"と言い、昭和40年代のこのジャンルのフォーマットに則った名前が胸キュンを誘う。以前からYouTubeで予習していたのだが、自分が気になっていたのは当時のサウンドをかなり良く再現しているエレキベースなのである。

 開場時間は午後2:30なので久しぶりに訪れる江ノ島を散歩するべく、30分前に小田急片瀬江ノ島駅に到着。子供の頃と変わっていない竜宮城の駅舎を出て、新江ノ島水族館の方へ向かう。5月の爽やかな潮風に吹かれて海岸線の公園を歩いてみる。
 昭和40年代、特に1966〜68年頃の湘南の音風景の記憶が蘇ってくる。潮騒、若者の歓声、オートバイの音、そしてエレキバンドの音である。こうした野外で聞こえてくるエレキバンドの音は、広い空間や砂浜の影響で殆ど減衰してしまい、残っているのはエレキベースとボーカルの音だけという、これが自分の湘南の音の原風景なのである。その祭り囃子のように誘うエレキベースの音を頼りにバンドの居場所を探して近づいてみる。やっているやっている。特設ステージ上の人の背丈と同じほどの黒い塊、アンプとスピーカーが眼に飛び込んでくる。コイル状に巻かれたシールドコードが潮風にゆらゆら揺れて、ベーシストはほぼ直立の姿勢で音を刻んでいる。
 現代のソリッドなエレキベースのBon Bonという音とはちょっと違って、Tdsun Tdsunなのである。このサウンドに含まれるT、d、sの成分はセミアコースティックタイプの楽器にピックを使って繰り出されるものである。ポール・マッカートニーが愛用していたバイオリンの形をしたヘフナーというブランドが有名だが、当時の日本のGSもこれを弾くベーシストは良く見かけたものである。そして、真夏の陽射しをものともせず、スーツ着用で涼しい顔をしながら(職人芸には頭が下がります)ピックを刻む。ヘフナーエレキベース+ピック+スーツ、このコンビネーションこそ、自分にとっての昭和40年代当時のアイコンなのであった。
 iTunesは持っていなくとも脳内は当時のサウンドで満たされながら、海岸沿いの境川に掛かる橋を渡りながら江ノ島を望む。近くに停泊しているボートが波を噛む音も心地よい。江ノ島に渡る桟橋(今ではクルマも渡れるコンクリート橋だが)の袂の地下道を潜ると眼の前に建っているのが会場の江ノ島ビュータワーである。
 エレベータで7Fに上がり、ドアを明けると”虎丸座”の窓際には素晴らしい景観が広がっている。左手は鎌倉から三浦半島が、正面は江ノ島、右手は湘南の海岸線が茅ヶ崎〜小田原の方まで一望できる。これは夕暮れが楽しみである。
 3:00開演で、まずは本日対バンの”ざわ”という箏弾き語りとアコギのデュオを聴く。このふたりはボーカルもとるが、アコギのベースラインに沿って20弦箏の低音部がそれを補強するというスタイルをとっていた。エレキベースサウンドの前菜とういうかたちだろうか、生弦のアンサンブルもなかなか良いものだ。
 さて4:00頃から期待のエレキベースの登場である。ドラムス、リードギター、女性ボーカル、女性コーラス、そしてエレキベースという編成で始まった。女性コーラスは対バンの”ざわ”の箏弾き語り奏者が務めている。
 このエレキベースは正に、ヘフナー型エレキベース+ピック+スーツという正統的スタイルであり、期待した通りの嬉しいものであった。昭和歌謡ポップスらしい、DakaDaka! BacaBaca! DocoDoco! SocoSoco! というドラムスのイントロも奇麗にキマッて、昭和40年代に完璧にタイムスリップさせてくれた。PAを殆ど使わないアンプとスピーカだけの、あの懐かしいサウンドの再現である。
 さて、ステージが終わってその会場で打ち上げが始まった。日没の夕焼けに富士山がうっすらシルエットを浮かべ、期待したとおりのトワイライト江ノ島を満喫しながらの楽しいひとときである。”Rieko & the Secrets" のMCも担当するエレキべーシストのS氏にお話を伺うことができた。
 やはり、思った通り、当時の昭和歌謡ポップスに於けるエレキベースサウンドの再現に情熱を燃やされ、当時の原曲の収集、研究をされているとのことであった。当時のシングルのB面の価値を熱心に訴えられる姿も印象的であった。それにもうひとつ、今後が楽しみなお話を伺うことができた。
 ボーカルのRieko氏はジェファーソン・エアプレインのボーカルにも惹かれているとのこと、エレキベースのS氏も、あの黄金の60年代の名曲、"SOMEBODY TO LOVE、WHITE RABBITをぜひやりましょう" そう言ってくれた。
40年前の湘南、江ノ島の音の原風景に浸った楽しい初夏の一日であった。

"ざわ" maco箏弾き語り featuring 澤井慶太ギター

”Rieko & the Secrets" S氏

”Rieko & the Secrets"

”虎丸座"から湘南海岸〜富士山を望む

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