Under the blue sky


自衛隊のイラク派遣に関して

くろい虎師んとこの掲示板で書いただけでは収まりがつきそうにないのであえてこの問題に触れてみる。
最初に断っておくがオレは「中道右派」だ。おまけに軍事マニアはおおむね平和主義者である。一国を傾けるほどの予算を使って破壊と殺戮を行う「戦争」という行為と、そのために特化された兵器や戦術というものの存在の虚しさを、調べれば調べるほど見せつけられるからである。

で、本題。
現実を理解していないアーパー娘が何やらをやらかし、それに同調したお調子者が5000人以上も署名したそうな。
結果、小泉首相に「もっと実情を勉強しろ」と一蹴されたわけだが、今回の「自衛隊のイラク派遣」に関しては賛否両論あるのは当然。しかし感情論は見苦しい。

ま、行っちまった以上は一人の殉職者も出さずに無事に戻ってきてほしいものである。これに尽きる。

さて、ニュースなどでは「自衛隊のイラク派遣法案」と済ませているが、実はえらく長い。いくぞ。
「イラク人道復興支援活動・安全確保支援活動実施特別措置法の規定に基づき自衛隊による人道復興支援・安全確保支援活動の実施に関し承認を求めるの件」
……ROE(交戦規定)が定められている軍隊なら信じられん長口上である。

あまりにもヒマなのでこの法案が可決されるまでの全ての経緯を国会中継なんぞで見ていたわけだが、延々数十時間にわたってよくもまあ下らん揚げ足取り合戦をやっていたものである。
途中で席を立って審議を中断させた野党(主に民主党)の議会制民主主義の原則にも反した行動にもめげなかった斉藤斗志二委員長の毅然とした態度が面白かった。
まあ、結局は与党の数の論理で強行採決となって乱闘というお定まりのパターンだったわけだが、見ているほうは興醒めもいいところだ。

大筋はこんなことろだと自分なりに解釈している。
「私ゃ横丁のご隠居。神輿担ぎは家憲に反するんで小判3枚でご容赦を」
と金だけ出して回避したのが中東への掃海艇派遣の時。このときのツケは高くついた。中曽根内閣は国際社会の中で辛うじて面子を保った。金の力で。
時代は下り、もはや金の力だけではどうにもならず人的資源で貢献せざるを得ない、というのが現状である。
それに最も適した人選が衣・食・住の補給体制を持ち、危険に対応できる能力を持った自衛隊なので、自衛隊を派遣する、というのが政権与党の主旨。
国連とNGOに委ね、より人道的な支援をせよ、というのが野党の主旨。

だが金も人も出さないフランスと中国がでかい顔をしている国連に調整能力がもはや期待できないことは明白であるし、NGOの民間人が行ってインフラ整備の貢献ができるとも思えない。

こう書くと「マ大佐は派遣に賛成派か」となるのだが、政策云々の賛否より先に派遣される自衛官に敬意を払い、暖かく送り出してやりたいと思う。
なぜか?
派遣される自衛官達が憲法第9条と自衛隊法の重い宿阿を背負ったまま、それでも堂々と出て行くからである。
地下鉄サリン事件の際に身を捨てて乗客を救った駅員といい、
年間に一般企業など比較にならない数の殉職者を出す消防署といい、
第一線の連中の士気は驚くほど高い。
カンボジアPKOの頃から派遣される自衛官は皆、腹が座っていた。
政治家、文化人、NGOと称する連中は己のくだらん感情のツケをそいつらにまで回すなということである。

それともう一つ。自衛隊という組織の存立する意義についてである。
平和を語る時にスイスなどが引き合いに出されることが多い。実際審議委員会でも野党の連中が口にしていたが、軽々しく語ってはいけない。
確かにスイスとスウェーデンは永世中立国である。社民党の理論では日本も永世中立国化というお題目らしいが、忘れてはいけない。あの2国は世界でも屈指の兵器輸出国である。おまけに国民皆兵だ。(余談だが「スイス海軍」は確かに存在する)
自動小銃1丁と弾丸200発、食料等を保持すること、年に1回の軍事演習への参加が成人男子の義務なのだ。「軍靴の音が云々」どころではない。中には対空機関砲持ってる家だってあるのだ。
永世中立国にしてこの武装国家なのはなぜか?

警察が常設されるのは犯罪に対する「抑止効果」があるためである。では他国の武力に対しては何が「抑止効果」になるのか?
「安保の鬼子」と蔑まれ、危険な地域に満足な正面装備を持っていくことも許されない「自衛隊」というものに対して、「軍隊=悪」という単純な公式を当てはめるのではなく、もう少し考えてみることはできないのだろうか。