Under the blue sky


Crazy for you

――ファウストはメフィストフェレスに魂を売って明日を得た。
 ――マクベスは三人の魔女の予言に乗って地獄へ堕ちた。
  ――カスパールは仲間の命をザミエルに差し出して魔弾を鋳た。

時に人は悪魔の囁きに抗えず、己の欲望を達成しようとする。

オレはかつてオーディオマニアだった。MDにひたすら背を向け、DATに走っていたのだ。何せ初代のDATウォークマンを所持していたりする。
時代は下り、音楽はPC上で聞くことが多くなり、ノートPCはただのジュークボックスになり、MP3携帯オーディオをいくつも買っては使い倒し、リッピングとMP3エンコードを繰り返す小僧になったわけだ。そんなオレが未だにi-Podを買わないのは単にIEEE1394の端子がPCにないからだ。 しかし、MP3もMDと同じく聴覚理論(人間には聞こえない”であろう”部分をぶった切って圧縮する)である以上、音質の劣化がある。そこで最近はWAVEファイルを直接聞くというHDDには極めて優しくない音楽の楽しみ方をしていたわけだ。

前置きが長くなった。つまり今回は家にあるDATのテープでかつ音源が喪失しているものをデジタルデータ化してPCで聞こうと思い立った、そのまとめである。

まずは良質のサウンドデバイスが必要だ。何せ、DATのテープにはSCMS(シリアル・コピー・マネージメント・システム)というのがあってPCへのデジタル録音ができない。
その昔、DATはデジタルソースからデジタル録音をすると孫へのデジタルコピーができなくなる、という機能があった。要は著作権保護のためだったわけだが(アナログ録音のデバイスは音質劣化というものがあるのでよかったらしい)現在のCDからHDDへのリッピング全盛を見ると意味のない規格である。
そんなこんなで今回はDigital Audio社製のCard Deluxeを特別にレンタルしてきた。
とんでもない値段のオーディオカードである。
もちろんこんなものを所持しているのは我が親友赤い水星卿だ。話を聞くと、どうも使用していなかったようで、その理由は……。
「ノイズが乗るんだよな、一部のエロゲーで」
……超高級オーディオカードでアダルトゲームを走らせるなど……そんなこと考えもしなかったぞ。

まずは下準備。【hp】 Workstation X4000にオーディオカードを投入後、WDMドライバを当てておく。Xeon機を投入するのは編集の際にCPUパワーを必要とするからだ。で、この段階で1回視聴したのだが……優れた分解能、伸びやかな中高音、輪郭のはっきりとした打楽器……。
欲しいぃぃ!
久々に物欲ゲージが振り切りそうになった。いかんいかん。作業を進めるとしよう。第一そんなお金はないのである。

元々オーディオデバイスであるCard DeluxeはASIOに対応しているのだが、プラグイン等を使用しないと動かないソフトもあるのでそれらを用意する。
ASIO(Audio Stream Input Output)とはSteinbergというドイツのメーカが作ったオーディオ用ドライバの規格で、要はWindowsのヘタれたミキサーを介さず、アプリケーションからドライバを直接叩くので”音がいい”のだ。
まずは汎用ドライバとして最近とみに注目を集めているASIO4ALLをインストール。
再生にはfoobar2000を使うのでこちらの方が出されているプラグインを有難く使用させていただく。
録音そのものにはASIOに対応したWaveSpectraを使用しゲインなどをモニターしつつ、最後はGoldWaveで発生したファイルの編集とリサンプリングを行う。

そうそう、ASIOドライバはオレの愛して止まないAurealのサウンドカードは対応していないので、泣くしかない。ところがどうでもいいUSBオーディオデバイスやらCrystalのサウンドチップは動いてしまうのだ。

DATとCard Deluxeを我が家で一番質の高いケーブルで接続し、ノイズ対策などの細々としたことに気をつければ後は一気に録音すればよいだけだ(ケーブルのINとOUTをつなぎ間違えて、音が出ずに30分悩んだのはここでは秘密だ)
一曲一曲録音するよりも、まとめてDAT1本を録音してから後で切り分けたほうが早いのだ。
で、ここからが面倒なところでWaveSpectraでASIOドライバを用いて録音する際のレートは44.1KHz、32Bitのものになる。通常のCDが44.1KHz、16Bitであるから録音したデータはCD化できない。無論Windows Media Playerでの再生もできないのだ。そして一番困るのはそのレートのWAVEファイルを編集可能なソフトウェアが本物のオーディオ用ソフトウェアしかないことだ。そんな1本ウン十万もするソフトを買うことはできないのである。
だが幸いなことにGoldWaveは高ビットのデータの編集が可能だった。これでデータを各トラックごとに切り分けつつ、44.1KHz、16Bitのデータにリサンプリングして保存ということになる。
編集作業中
録音しただけの生のデータは軽く600MBを超えるので、CPUパワーのあるマシンでないと処理に時間がかかる。論理4CPUがフル稼働である。
こんな感じで比較的楽にデータ化が行えている。大容量のHDDがあるのでライブラリ化して保存しておこうと思う。

しかし、DATから44.1KHz、32Bitで録音した生のWAVEファイルを再生してみたが、すごい良質の音であった。さすがはオーディオカードである。
そうなってくると益々欲しくなるわけで、どうにもならない狂おしい気分を紛らわせるため、安い白ワインのマドンナを飲みながらデータ化したばかりのMadonnaの「Crazy for you」(*1)を聞くのであった。
オレはオッサンなのでこの手の懐メロで気分が落ち着くのだ。

(*1)
15年前くらいに三菱ビデオのCMに使われたこともある名曲。
「フラッシュダンス」「フットルース」などの映画サントラからメガヒットが出たことで二匹目のドジョウを狙って「ヴィジョンクエスト/青春の賭け」(レスリングをテーマにした地味ーな青春もの。マドンナもチョイ役で出ている)の主題歌として歌われた。
映画はコケたが、歌はヒットしてこれ以降マドンナはカルト的なダンスディーバからスターへの脱却を図ることになるのである。
エコーを上手く使って彼女の声を引き出したアレンジと、何より「I'm crazy for you, crazy for you」と繰り返す歌詞が素晴らしい。