コーラスライン&スクルージ

 2000年まであと10日となりました。この時期、コンピュータ業界を中心に忙しい思いをしている方も多いのではないでしょうか。僕も仕事がパソコン関係という事で、結構バタバタしています。そういえば、今年の年末・年始は首都圏のホテル業界や貸し布団屋さん、仕出し弁当屋さんなどが大繁盛のようです。年末年始に泊まり込む社員に向けてちょっと豪華なお弁当がはやりだとか。まああまり大きな事件は起こらないとは思いますが、細かい事はちょこちょこありそうですね。

 さて、忙しい割にはしっかりと休んで、土・日とレンチャンで舞台を見てきました。いわゆるまともな(?)ミュージカルは久しぶりです。まず土曜日は久々の四季、「コーラスライン」です。実は結構悲愴な覚悟を持って四季劇場に行ったんですよ。「コーラスライン」についてはあまり良い評判が聞こえていませんでしたし、個人的にもここの所四季の舞台はあまり満足のできる作品に巡り会えなかったので、これで「コーラスライン」もおもしろくなかったら当分四季は見なくなっちゃうんじゃあないかなんて思いながら四季劇場に向かったのでした。

 この日の座席は7列目のセンター。とてもバランスの良い場所です。「コーラスライン」という作品はよく使われる写真にだまされて(笑)、派手な作品だと思っている方が多いようですが、実は登場人物ひとりひとりの告白が中心に回っていく、どちらかというとミュージカルの中でもドラマの部分が多い舞台です。ですから、やはり登場人物にある水準以上の演技力が無いと単に退屈なだけの舞台になってしまいます。この日の舞台は僕にとってはそれなりに満足のいくものでした。ちゃんと一人一人の告白に説得力があって休憩無しの2時間半近くが一気に過ぎて行きました。ま、いつもながら「性への目覚め」という所ではちょっと無理があったような気もしましたが(笑)。そして最後の「愛した日々に悔いはない」、坂本里咲さんの歌が心に響いてきます。四季も捨てたもんじゃあないなと思った舞台でした。最初にキャスト表を見た時は知らない人ばっかりでちょっとドキドキしてたんですが、久々に四季を見に行った甲斐があったというものです。

 日曜日は「スクルージ」です。恥ずかしながら、僕この作品は初めてみます。何でだかは知りませんが、すっと見たいと思っていて見る事のできなかった舞台です。座席はちょっと端ですけど最前列。前に視界を遮るもの無く、ゆっくりと市村さんを堪能しようと思ってでかけました。

 この作品、ディケンズの有名な作品をミュージカル化した作品ですが、原作を知っていようがいまいが、話の流れはすぐにわかります。それにはっきり言って結末も途中で思い浮かべる事ができます。「はいはい、最後は改心してハッピーエンドになるのね、ふんふん」と思って見ていたのですが、結末を予想して見ている割には途中で涙が出てきます。何気ない会話が心にしみてきます。人間関係、特に家族関係がとても細かくそして(良い意味で)計算されて描かれているため、どんどん舞台に引き込まれて行きます。市村さんの力量もあるのでしょうが、非常によくできた脚本です。最後は本当に「ウルウル」してしまいました。ああいう舞台を見ると舞台の感想を文章で書こうとする事が無駄だという事がよくわかります。やっぱり舞台なんて見てナンボですね。それこそ文豪ディケンズでも無理でしょう。久々に心から感動し、ミュージカルに感謝をして家路についたのでした。題材から言ってクリスマスの時期にしか上演されないのがとても残念です。

 2日間、どちらも楽しめた舞台だったのですが、2つの舞台を見てちょっとわけのわからない事を考えてしまいました。

 コーラスラインというのはオーディションの世界です。特に合格する人数が決められているオーディションにおいては他人の幸せは自分の不幸に直結します。そんな中で人間が優しさを持つ事ができるのか。例えば一緒にオーディションを受けているライバルが怪我をした時、真に同情できる人間がいるのだろうか。そんな事を考えていました。確かに理想論としてはフェアに競争をして合格しなければきっぱりあきらめるというのが本当でしょうが、人間そこまで割り切れるものではありません。また夫婦でオーディションを受けた二人も、舞台では(幸運にも)一緒の結果でしたが、あそこで一人だけ合格したらその後の生活はうまく行くのでしょうか。「コーラスライン」、本当にいろいろな事を考えさせてくれる舞台でした。ただ現実はともかく「私はこうありたい。」という思いは必要だという事は強く感じました。

 で、翌日の「スクルージ」です。前半のスクルージは本当にいやな人間ですが、そういう生活を続けていたからこそ改心した後いろんな善行ができるだけの財力があったんですね。確かにクラチットのほうは幸せな家族を持ち、皆からも好かれているのですが、現実には病気の子供を医者に診せるお金も無い。そうなると人の幸せって一体何なんでしょうか。ここでも理想と現実のギャップが出てきます。どんなに清く誇り高い暮らしをしていても現実にはお金が無いと暮らしていけません。それにお金が無いとミュージカルだって見られません(笑)。この「スクルージ」、一幕ではそういう二つの対照的な生き方を鮮やかに描く事で、現代にも通じる「社会の矛盾」のようなものを鮮明に写しだしています。誰だって他人から尊敬されるような生き方をしたいけれど、やっぱりお金は欲しい・・・ですよね(笑)。

 どちらの舞台もすごく楽しめるものでしたし、特に「スクルージ」の方は感動しまくりの舞台でしたが、考えさせられる事も多い舞台でした。

 でもこれだけいろんな事を感じさせてくれるのですから
やっぱり舞台って素晴らしいですね。

(99/12/20)