ぬぬ 

 例年、暮れに年賀状を書く余裕がなく、元旦を迎えてから、頂戴したのを楽しく読ませていただき、失礼ながら返信のように年賀状を出させていただいています。
 今年も中学校のときの先生から頂戴し、あわてて私の写真入りの現状をかいたものを投函しました。そしたら、なんと電話をくださいました!
 御年94歳、一軒家でひとり暮らしをしていらっしゃいます。
 電話の声はしゃんとし、話すスピードもなかなか。趣味は健康麻雀だそうで、毎週木曜日に地域で65歳以上の方が集まってやっているそうです。「お酒を飲みながらやらない、賭けない、愚痴らない」という三つの約束があるそうです。さすがに90歳以上の人はお一人のようです。若いときから料理は好きではなかったから「今は生活クラブ(生協)で持ってきてもらう冷凍食品って、案外おいしいのよ。庭は落ち葉の季節は大変なんだけど、転ばないように気をつけてやっているの」

 日常生活のことを話しながら、私のテンションは上がっていきます。
 昔の話になりました。引っ込み思案だった私を引っ張り出すには、「私立の高校がいい」と思った。先生のお住まいの近くの高校があう気がした。そのときの柴田さんちの経済状態なら「入れられる」と思ってお母さんに話しました(当時は私立は月謝が高いので、公立に進む人が多かったのです)。「あれがよかったのね」と。そんなことまで配慮してくださっていたこと、そのことを今でも覚えていてくださっていることに、感激でした。私は学校で発言できない子でした。学校生活の中で、初めて、この人は信頼できると思ったのがこの先生でした。その頃から学校でも自分を開くことができるようになったと思います。
 中学二年のとき、暗い廊下で「あなたは自分が思っているより、できる人ですよ」と先生が通りすがりに言ってくださったことを今でも覚えています。
 誰にも媚びない、背筋がまっすぐ伸びた、真っ赤な口紅を塗った、数学の先生でした。
「あなたの学年で、いまでも<現役>でやっている人はいないと思うわ。車の運転はこちらが悪くなくても事故は起こるから、行きつけないところはさけたほうがいいです」
 30分近い長電話は、やっぱり先生の言葉で締められました。
 この先生と出会わなかったら私の扉は開かなかったのか、そんなことはなくてもいずれ開いたのかはわかりません。けれど、信頼できるおとなとの出会い、歳を重ねても憧れることができる人生の先輩がいることは、やっぱり幸せなことだと思いました。
 電話を切った後、あれ? 先生と私って、20歳しか違わないことに気がつきました。ということは当時は私が14歳だったのですから、先生はなんと34歳くらい! そんなにお若かったのです。それって、私がりんごの木を初めた年齢じゃないですか。何歳でも、子どもにとっては先生は先生なんですね。
 考えてみたら、その後も私を育ててくれたのは、先輩保育者であり、仲間のスタッフであり、なんといっても子どもたちです。勉強で学んだものもありますが、実感を持って力になったのは人に育てられたものが圧倒的に多い気がします。人は群れの中で、あれこれありながら育ち合っていくのですね。

 

 正月明け、子どもたちはぐーんと大きくなって現れました。特に5歳児は身体がしっかりして、もうすぐ小学生と思える育ちをしていました。
 初日のミーティングは、スタッフが持って来てくれた「だるま」が、話題に。
「だるまってなに?」「目の周りは鶴、口の周りには亀が描かれている」なんて知っている保育者がいて、だるまの由来を感心しながら聞き入りました。
「どうして一つしか目玉が書いてないの?」の問いに、私が「みんなが健康でありますように。りんごの木にお金が入りますように願いながら書いたのよ」と言うと「おかねもちになりたいの?」と言うので「お金持ちと言うほどでなくてもいいの。りんごの木が困らないくらいのお金があれば」と、子どもたちとのやりとりとは思えない話。
「だるまさんが転んだって、あそびがあるよね?」 あれはなんでだるまさんなのか・・・こんなふうに話がどんどん展開していきます。
 だるまさんだけで30分くらい話に花が咲きました。
 翌々日は、りんごの木にやってくるときの気持ちから、あそびをどう始めるか、あそびたい人とあそべなかったら、好きな人から避けられたら・・・・と、つるつると運んでいきます。人間関係の核心を突いたような本音の発言がされていきます。ひたすら子どもたちに感心しながら参加していました。もうこんなに育っている!
 もともと32年前に4,5歳児を作ったときから続けてきたミーティング。ノウハウをきちんと伝えることもできず、ひたすら日常のリズムとして繰り返してきました。スタッフもきっと迷いながら正解のない保育・ミーティングをしてきたのだと思います。
 人も保育も生ものですから、少しずつ流れながら変化をしてきています。りんごの木の文化が深まってきたのを感じました。ちょっとうれしい年始めです。

                                        (1月14日 記)

 

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