ぬぬ 

 1月31日に一泊で、5歳児とキープ自然学校(山梨・清里)に行きました。(つれづれ731回に書きました) そのときに森を案内してくれた小西貴士さんに、7日、りんごの木にいらしていただきました。キープでは自然の豊かさを感じてきましたが、日々を過ごしているりんごの木の周辺には自然がないのだろうか?と、思い始めたからです。
 コロナウイルス感染が騒ぎ始めたとき、<生命誌>の中村桂子さんに興味を持ち、お目にかかり、りんごの木の夏季セミナーで小西さんと対談していただきました(2022年)。そのとき、お二人はどんなところにも自然はあり、生きていると話されました。地球上に生きている限り、目に見えないものから見えるものまで、たくさんの生き物と共生していることを知りました。コンクリートの都会の中にも、草が生えたり、生き物たちがいると聞いたときに、そんなことをまったく感じていない自分に気がつきました。
 今回、子どもたちが清里の自然の中で体験してきたことをただのイベントにしないためにも、小西さんに来ていただいて、一緒に散歩をして、日常の視点を広げたい。清里とセンター南を線で繋げたいと思ったのです。

 前日に子どもたちはゴリ(小西さんの通称)を案内する場所を決めていました。いつも行ってる場所で、徒歩15分くらいのところにあるひょうたん池です。
 朝、ゴリがやってくると「どうやってきたの?」「ちょっと としよりになった?」「あれはマンションっていうんだよ」 なんか、原始時代から登場したかのような声かけ。そんなに差を感じていたのですね。
 一緒に歩き始めて数分後、「こんな花が咲いている」とゴリが指さしました。毎日、歩くところだけど案外気がついていませんでした。「ほんとだ」と子どもの視線が花に。すると急にそこは清里になったかのように子どもの視点が変化しました。そこに落ちていた二股になった木の枝を拾い「シカのつのだー」ってなったのです。
 細い枝の先に赤い小さな芽がついているのを発見。「マッチ!」と言います。
「黄色と緑と赤い葉が一緒にいるね。黄色い葉っぱはなんて言っているのかなぁ」と、ゴリが言うと「きいろのはキキキって、みどりはミミミっていっている」と子どもたち。5歳児です。一般的には「はっぱがいっているわけないじゃない」と返ってきそうな子もいる年齢です。そんな会話ができる子どもたちの柔らかさがうれしかったです。
 もう、ぜんぜん先に進みません。ひょうたん池に魚の仕掛けをしてきた子どもたちは早く早くと焦りますが、つぎつぎ面白いものが登場するので進まないのです。

 ドングリを拾いました。「あかちゃんは生まれてすぐになにを食べる?」とゴリ。「おっぱい」「ミルク」と子どもたち。ドングリをハサミで半分に切りました。先端は緑の芽、殻の中は白。

「同じだよ、この白いのがドングリの赤ちゃんの育っていく食べ物なんだ」
 切り株の皮が剥がれるように浮いています。中にトンネルのように穴が空いています。

「なにかが食べてトンネルにしたんだね」
 そこにカブトムシらしき幼虫の死骸が出てきました。
 この前雪降って、寒かったから死んでしまった。でも中には生きているのが住んでいるだろう、と穴に手を入れていきます。
 木の皮を強引に剥がそうとした子に、
「自分の家を突然壊されたら嫌だよね、ここは虫たちの家なんだ」とひと言。
 やがて違う切り株に、茶色のブヨブヨしたキノコが生えていました。それを採って触った子どもたち、
「みみだ!」
 そうなんです、形も触り心地も耳と同じだったのです。私はブヨブヨは嫌いですけど、子どもたちの発見に促されて触ってみました。ほんとに耳たぶそっくりでした。大発見!
 自然物と自分とが繋がっている視点を、たくさん気づかせてくれたように思います。
 こんなふうに、一歩一歩進んで行きながらたくさんの「知らなかった!」と出会います。
 30分も歩いているうちに、この辺はなんて豊かな環境なのかと実感しました。知ろうとしない、興味を持たないことが、どれだけ残念なときを過ごしてきたかと思いました。
 ひょうたん池につくと、仕掛けにはたくさんの魚が入っていました。
 そこまでに拾ってきた実や花や小枝を黒い布の上に置くと、「きれい!」
 清里から持って来てくれた水とハーブでお茶を入れてくださいました。温かい飲み物はありがたくておいしい。
 二時間半を越える散歩でした。日常を過ごしている周辺の豊かさを感じました。
 ゴリが毎月来ればいい話ではなく、今、私たちは立ち止まり、豊かさを子どもたちと日常のものとして感じていく必要があると思います。
 自然が大事とか、生き物を大事にしましょうとかいう目標のためではなく、自分自身の感性が外に開くことで豊かに生きられる。そんな気がします。   (3月11日 記)

 

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