「ある朝突然に」

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 そういう場面に出くわすとは考えたことさえ無かった。
 朝になると、自分のサイトに新しく雑文ページが出来ていたのである。

 本当に本人が知らないうちに出来ていればそれは驚くべき事実だが、実際はそんな大スペクタクルではない。ちゃんと自分でせっせと文章を書いて、タグをコピーペーストしながらHTMLファイルにしてFTPをかけてアップロードしたのだ。
 今まであった自分の個人ページの、しかも3週間は溜まっている日記や切れたリンクの更新を差し置いて、新規のページが出来ているという事態はまったく想定されていなかったし考えなかったのは確かだが、それなりには頑張ったらしい。いきなりジャンプ用のgif画像ボタンまで新規に作られている。さすがにリンクバナーまでは根性がなかったようであるが。

 実は、唐突に雑文を書こうと思ったわけではない。昔まだ仕事が暇だった頃、流れ着いた数々の雑文サイトで笑いを押し殺しつつにやにやしてむさぼるかのようにマウスを操作した日々に、「いつかは雑文」とまるで昔のクラウンという車のCMのような勘違いした憧れを抱いていたのである。
 折りも折り、雑文祭などという期間限定イベントがあるという。ここでその雑文祭にリンクを張るのがwebコンテンツの基本ではあるのだが、これを読んでいる人は知っている人か、リンクが切れた後に来た人が大多数だと思われるので省略する。別に手抜きではない。タグが面倒だったなんてことでもない。リンクを張ってここに帰ってこなくなることを心配してた訳でもない。ましてや面倒だったなんてことは無いのである。ぇぇ。
 で、これにあわせて雑文ページを作ることにしたのだった。お題が決まっているので、いろいろ構想を練った。もう練りまくったり練りまくらなかったり練りまくらなかったりしたのだが、結局初っ端から反則技を使うことにした。1回前のテーマで書こう、というちょっと卑屈な逃げだ。イベントの趣旨にいきなり反する荒業である。ひねくれ者の血が叫んだかどうかは定かではない。なにはともあれ、これで行こうと思い込んでしまったのである。
 だからいきなり雑文ページが出来ているのは驚きではなく、ちょっとした努力の賜物なのである。誰も誉めてくれないと思うので自分で誉めておこうと思ったが、それはそれで虚しいので止めておこう。

 とにかく、本題というか文頭に戻るが、考えていなかったのは、それがネタがかぶりしていた、ということである。

 自分でリンクを書き終えて他のサイトを眺めていた時に、そのリンクを見つけて血の気が引きそうになった。貧血でも起こして倒れたらネタになるな、ともう一人の自分は冷静に考えたりしているのだが、それこそ「小さな貧血、大きなお世話」である。だいたい、考えてみれば貧血など起こした記憶はほとんど無い。
 反則技というのは、最初のインパクトが命である。あ、やられた。と思わせなければ虚しい愛想笑いしか残らない。しかも、当然のごとくその雑文は自分のものより面白かった。完全な敗北である。いつから勝負になったのか良く分からないというツッコミはご遠慮頂きたい。ほら、私が可哀相だから。ね。

 なにはともあれ、負けたと分かればやるべきことは一つである。
 「敗軍の将は兵を語らず。ただ消え去るのみ」という格言に従って、速攻で撤退の準備をする。撤退なのに速く攻めに行くのであるが、きっと殿(しんがり)部隊が戦うのだろう。ともかく、新しい雑文を書くのだ。リンクの数が増える前に、すぐさまアップしたファイルを差し替える。これで負けた事実は消え去る。証拠隠滅だ。戦争の事実はなかったと言い張ればきっと大丈夫であろう。少なくとも、数十年は裁判でもけりがつかないだろうし。そんなことを考えつつ、終戦処理を終えて雑文祭の他のページを開いていく。
 さまざまな雑文サイトを巡る転送待ちの間に、ふと不安がよぎった。この「ネタかぶり」ネタもかぶっていたら……。あまり考えたくはない話ではある。


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