■■ なりゆきお絵描きコラム 2■■


モノは試し…

HOME

感想、意見、質問などは掲示板かメールにて

|PAGE-1|PAGE-2|


光ある所に影あり    (20/Mar/1999)

ここでは主にアニメセル風の影付けについて作例を通して解説してみようと思います。例によってこれも一つの解釈に過ぎないということを忘れないください。

セルアニメの場合、色が均質なので、ノーマル部分と影部分を塗り分ける事によって面表現を行い、奥行きや立体感、あるいは質感などを表現します。「ノーマル」部分とそれより落とした影の塗りを「一段影」、さらに落とした部分を「二段影」と言います。影色に単純に明度を落とした色を使うと画面が暗くなってしまうので工夫が必要です(色指定の腕の見せ所)が、ここでは塗り分けのライン取りに絞って話を進めます。



 光源は人物の後方からです。頬を縦に通る境界のラインは様々な解釈が成り立ち、これはその一つに過ぎません。どのようにラインを取るかは正直センス次第といった所です。ただ、このライン取り次第で質感、立体感がかなり変わりますので安易にラインを取る事は危険です。絵柄や表現目的にも依りますが、シンプルなだけに奥が深く、十分に吟味すべきものだと思います。(アニメーターは数をこなすことによって経験的に学びます)
 鼻の側面の明部は光源からの光というよりは環境光(光源からの光が周囲の物体によって反射したもの)と考えた方が自然かもしれません。が、実際には鼻の立体感を表現するための塗り分けというのが正しいでしょう。唇の部分的な明部も同様にココが唇という事を主張するためのものです。暗部の中に明部をポイント的に置くことによって部分的な形や質感(特に女性の場合は艶の)表現として効いてきます。
 鼻の側面に光が当るならば、頬の部分やまぶたの上などにも明部があるはずですが、それらを作ってしまうとごちゃごちゃしてしまうのでポイントを絞っている訳です。特に表情を決定する目や眉、口元の周辺に明暗表現を用いる時は注意が必要で、そこで描こうとしている表情を損なわないように出来るだけ控え目にした方が良いでしょう。ただし影を積極的に使った感情表現というモノもあります。(これは別項)
 


ほぼ逆光です。布部分は柔らかく見える様に明部を作ってあります。喉元の辺りの明部は立体感の表現が主で、ここの立体感で顔の立体感を補助するといったところ。明部が内側に切れ込んでいるのは光が回り込んでいるという解釈も成り立ちます(が、それ以上の意味はありません)。背中側の明部は部分的に付ける事によって目立ち過ぎないようにしています。髪のハイライトはオーバーに付けやすいものですが、髪の全体にハイライトを付けてしまうと記号的な表現になり過ぎる(絵柄によってはそれもアリ)と思ったので最小限に。
 この絵のポイントは印象的な視線(瞳)ですから、それ以外の要素は極力控え目にします。眼球の白目部分には微妙に明暗を配して視線を強調。右頬の明部は頬の立体感を表現しています。この形の取り方で頬の柔らかさとか骨格が随分変わります。骨格は年齢や性格まで決定してしまうので(スタイルで描く絵の場合は別)、この絵の影付けの肝になる部分です。当然ながら下まぶたのラインや顔にかかる布地のラインとの関係も重要。
 
余談:目を描く時には目そのものの立体感とか表情表現も大切ですが、下まぶたのラインは頬の、上まぶたや眉は額の立体感を大きく左右するという事にも留意すると良いでしょう。ただし、平面的な絵を志向する場合は変に立体を意識することはかえってマイナスになります。
 個人的な事を言うと、僕の絵での立体感というのはレリーフ的なそれであって、もっぱら質感、量感のある種記号的なレベルでの表現を目指してます。所謂「ウソの立体感」であって、リアルな空間的、立体的表現はむしろ避けるようにしています。
 


これは順光。鼻の側面と下部を分けるラインが横に走ってます。鼻の穴が上手く描けなかったのでなんとなくこうしたんだと思います(笑)。 順光の場合、鼻の影を下に付けるか側面に付けるか悩む所ですが、ここでは見栄えを優先して側面にしています。下唇の所は影ではなく唇の色味が肌部分とは異なるという感じの表現。勿論下唇の影を置くのもありです。下まぶたについている暗部は影ではなく、泣いている事によってやや、はれぼったくなっているという感じを出すために付けているもの。
 

逆光にしてみました。光源を限定し、周辺を暗くすることによって人物の存在感が際立ちます。理屈ではこういう状況では環境光はほぼ無くなります。(そういうものだと認識する程度でOK)
 光源を限定しているので明部は部分的になります(実際は逆で、明部を部分的にする事で、光源が限定されている様に見える)。本来なら(画面)左側輪郭部分に回り込んでくるはずの明部は省略。そして顔の左側面の明部を出来るだけシンプルに表現し、涙に自然に注意が向かうようにします。頬に掛かる乱れ髪はアクセントとして、これも目立ち過ぎないように注意(乱れ髪の影をあっさり付けているのはそのため)。
 順光の時と同様に下まぶたのニュアンスと、下唇のハイライトでちょっと不服そうな唇の表情を表現してます。鼻の部分の明部を省いたのは鼻の横のラインで面が解ると思ったから。もし、そのラインが無いか、鼻腔が描いてあるだけの時は明部を小さく(面表現ではなくハイライト的に)入れます。(右側の絵。頬のラインは少し変えています)。
 
またまた余談:キャラクターの鼻の穴が描いてある方が絵として好ましいという風な考えが一部に在りますが、感覚的な問題に過ぎないので気にすることは無いです。求める表現に不要であるものはどんどん省いて構いません、場合によっては鼻を描く必要すら無いです(笑)。なぜなら鼻の形状は(一般的には)感情表現に関与しないから。
 人の顔を観る時にも鼻は(よほど印象的な形状のときは別にして)それほどちゃんと見られていません。他人と対面する時、人は相手の気持ちを推し量ろうとするので表情を読み取れる目、眉、口、体全体で現される態度に注意がいきます。その他の意識外にあるものは、それほど重要ではありません。(描写のバランスの問題であって、いい加減に描いて良いという事ではない。)
 


このように年齢が低いキャラクターの時は影も出来るだけ少なめにして必要以上に立体を主張しないようにします。理屈優先で克明に影や明部を付けてゆくと怖い絵になってしまうので注意。
 
さらに余談:線画の時には気にならなかったんですが、影をつけて立体感を出すと首がより細く(結果長く)見える事が解ります。色を付けてからデッサン狂いに気づくことはよくあります…。(描線が太めなのも理由の一つ)
 
明部と暗部の面積比が似たような対比になると絵としてはバランスが良くないので、面積比が7:3〜8:2ぐらいになるようにすると落ち着いて見えると思います。版権モノなどの時は目を引くために影やハイライトを多めに付けたりラインをきつめに取る方法も、やり方としてはアリ(でもほどほどに…)。
 
 要は、紙の上(あるいはモニター)の上にキャラクターを置くのではなく、観る人(読者の)意識(頭,心の中に)キャラクターが浮かび上がるように、絵を描くのが理想ですね。(…随分いきなりな総論だなあ(笑))。
 


 
かなり大まかな説明になってしまいましたが、こんなんでどうでしょう?こうラインを取ればこう見えるとか、ハイライトの付け方とか、シャドーとシェイドの違い、環境光の考え方とか、事項はいろいろあるんですが、きりがないのでこれぐらいにしておきます。ライン取りについては実際に沢山描いてみること、理論的な事に関しては専門書籍を参考にするのが一番だと思いますので(逃げ)。もしそれらに関して質問などありましたらメール、BBS等でどうぞ。その必要が生じたらここに追加する事もあり得ます。
 

HOME