<Back HOME> <掲示板へ>
<"ライブ"インデックスへ>
THE LIFE SHOW
1994年10月?日 at 渋谷公会堂written on February 17th, 1999
記憶が・・・さすがにこれだけ時間が経つと、もう曖昧にすぎて、本当に94年の10月だったのか、それが「THE LIFE SHOW」だったのかということさえ疑わしくて、印象でしか覚えてないのですが、小沢健二のライブはとにかく「渋谷公会堂」が初めてでした。
このライブに行くきっかけとなったのは、ひょんなことからです。行くとなった時点では、私は未だに「小沢健二」が何ものなのかよく把握していませんでした。
まず、行くことになった経緯は簡単で、「Long Story」の方でもいずれ(いつだ?)書くことのなるでしょうが、今や尊敬してやまない友人となったとある人との初対面での会話の中で「フリッパーズギター」というグループ名が出て、そこから「じゃあ、小沢は?ねえ、小沢は?」「え、いや聴いたことないですけど・・・」「じゃ、貸すから聴いて!」という布教の結果としてアルバム『LIFE』を借り、その後の勢いで「チケット1枚あるんだけど行かない?」「あ、じゃあ行きます!」と、それだけのやりとりがことの起こりだったのです。
笑ってしまうことに、私はその時点では、小沢の"2000席しかない「渋公」のチケット"をとるのがどれだけ至難の業なのかとか、そういうことは一切知らず、まさか小沢健二がそんなにメジャーであるなどとは露知らず、「借りたアルバムも良かったし、譲ってもらえるなら行ってみよ〜」という非常にいい加減なノリでいたのです。
当日。
とにかくライブなら、行ってみて楽しめばいい、というのが私の楽しみ方のベースにあるので、最初に借りた『LIFE』以外の曲については何の予習もせずに会場にいました。ライブにご一緒させてもらった人の中で初対面の人が多かったせいか、緊張していたせいもあるでしょう。詳細はほとんど覚えていません。
けれど、初めて経験する「ドアノックダンス」に苦戦したり、『LIFE』以前の曲の数々を耳を澄まして聴いて、『LIFE』と雰囲気が違うことに戸惑ったりしていたのは確かです。
けれど、聴いているうち、一緒に楽しむうち、どこか気持ちがジワっと抱きしめられるような気分になっていく不思議さがあって、これは何だろう、とどこかボーっとした脳味噌で感じていました。知らない曲でもやはりきれいなものはきれいで、切ないものは切ない。どこか空気が暖かい。優しい。きれいで、愛しい。
フワフワと、どこか異空間にいるような気分で、舞台の上にいる小沢健二という初めて見る人を注視しながら、あれは一体何ものなのか、と考えていました。
そしてライブの途中のどこかで、小沢健二というその人が「この曲は別に座って聴いてもいいけど、別に立って聴いてもいいし、叫んだり、泣いたり、何してもいいから」というような前置きをして『天使たちのシーン』を歌い出したとき、私は初めて聴くその曲を、立ったままじっと耳を澄ましてその言葉を追いかけるしかできませんでいした。メロディーに乗せて耳に送られてくる言葉を、リズムに身体を揺らしながら追いかけるうち、たまらなく切なくなっていったのを憶えています。
知らない曲だというのは確かなことで、どこにある曲なのだろう。それよりこの歌の「濃さ」はなんだろう?耳を澄ましていないともったいない、と、必死で目を凝らして小沢の姿を追い、耳を澄ませて小沢の口から送られてくる声を追っていました。
ひどく深くて深くて、初めて『LIFE』を聴いたときの驚き、フリッパーズの間を埋める「鍵」があるような気がしていました。
長い長い歌で、聴いている間一瞬も気が抜けませんでした。普通バラード系といったら、「お休み」の感覚が強いじゃないですか。穏やかに聴く、というそういうもの。けれど、初めて聴く『天使たちのシーン』を、私はすごく緊張して聴いていました。静かなメロディーラインは、歌い手として決して「巧い」訳ではない小沢には、普通はちゃんと歌いきれるものでないと、いつもの私なら思うはずだったのに、ずっと息を詰めて聴かなければならないような気分になっていたらしくて、じっと黙って息を潜めて小沢の姿と声を追っていたのです。
そして、あのともすれば単調なメロディーなのに全然単調じゃないことの不思議さ。一つ一つの言葉の濃度が強くて、初めて聴くのに一つ一つのシーンが輝くみたいで、なんだか凄い歌だと、感じていました。聴いていて涙が出るかと思ったのです。とても崇高な思いなのだというのを感じていたのだと今になると思います。
『天使たちのシーン』そして『ラブリー』という歌がどれほど深い意味を持っているのかということは、私はそれから数年経つまで明確には意識できなかったのですが、その時涙が出そうになって、なんだかすごいものを見た気がしたのは、きっと私が小沢をこれほどまでに大好きになるための下地だったのだと思います。
そんな風に、私にとってのこのライブは、"『天使たちのシーン』を初めて聴いて感動したライブ"という位置づけなのでした。美しい音、美しい言葉、生きている言葉、景色の見える言葉。空間に魂が宿るライブ。みんなが愛し合うライブ。なんだかステキだ。
ライブが終わって爽快な気持ちが身体に残り、なんだかまたこんな風に小沢健二という人を見てみたいと、感じていました。
そして、それからほどなくして、私は中古CD屋で『犬は吠えるがキャラバンは進む』というファーストアルバムを見つけて入手することになります。
このライブは一つのイベントの中の一部だったのでしょう。私の「小沢健二との出会い」という1つのイベントは、アルバム『LIFE』だけでなく、それを聴いてからすぐに参加したこのライブまでの一連のつながりで「1つのもの」だったのだと思います。
いずれにせよ、そこに大きく関わってくれた友人には感謝してもしきれないほど。
「小沢健二」を引き合わせてくれてありがとう。言うなれば、仲人さんですな。
そんな訳で『THE LIFE SHOW』(だよね?)は、私の小沢との出会いイベントの終わりで、おつきあいの始まりだったのでした。
All written by Hiroki YONO
<h.yono@iname.com>