『神道集』の神々

二王二天

天王寺

蘇我馬子宿禰大臣、諸皇子と群臣とに勧めて、物部守屋大連を滅さむことを謀る。 泊瀨部皇子・竹田皇子・廐戸皇子・難波皇子・春日皇子・蘇我馬子宿禰大臣・紀男麻呂宿禰・巨勢臣良夫・膳臣賀拕夫・葛城臣烏那羅、倶に軍旅を率て、進みて大連を討つ。 大伴連囓・阿倍臣人・平群臣神手・坂本臣糠手・春日臣〈名字を闕せり〉倶に軍兵を率て、志紀郡より、澁河の家に到る。 大連、親ら子弟と奴軍とを率て、稲城を築きて戦ふ。 是に、大連、衣措の朴の枝間に昇りて、臨み射ること雨の如し。 其の軍、強く盛にして、家に填ち野に溢れたり。 皇子等の軍と群臣の衆と、怯弱ヨワくして恐怖オソりて、三廻却還シリゾく。
是の時、厩戸皇子、束髪於額ヒサゴハナして、軍の後に隨へり。 自ら忖度ハカりて曰く、「将ハタ、敗らるゝこと無からむや。願に非ずは成し難けむ」とのたまふ。 乃ち白膠木ヌリテを斬り取りて、疾く四天王の像を作りて、頂髪に置きて、誓言を発て曰く、「今若し我をして敵に勝たしめたまはば、必ず護世四王の奉為ミタメに、寺塔を起立てむ」。 蘇我馬子大臣、又誓言を発つ、「凡そ諸天王・大神王等、我を助け衛りて、利益カつこと穫しめたまへば、願わくは当に諸天王と大神王の奉為に、寺塔を起立てて、三宝を流通ツタへむ」。 誓ひ巳りて、種々の兵を厳ひて、進みて討伐ウつ。 爰に迹見首赤檮有りて、大連を枝の下に射堕して、大連并て其の子等を誅す。 是に由りて、大連の軍、忽然に自づからに敗れぬ。

乱を平めて後に、摂津国にして、四天王寺を造る。 大連の奴の半と宅とを分けて、大寺の奴・田荘とす。

是歳、始めて四天王寺を難波の荒陵に造りたまふ。

金堂　南大門の内にあり。 ［中略］ 本尊如意輪観音　金銅尊容。 弥勒仏、四天王十二天画像、波羅門像六形、宝塔一基、仏舎利一粒を安置す。 太子御真蹟〔本願縁起〕に曰く、金堂に救世観音を安置す。 百済国の王入滅の後恋慕渇仰して造る所の像なりと云々。 斯くいふ事は、太子の前身は百済国の聖明王にして、如意輪の化身なり。 其子威徳王父の王崩じ給ふを深く歎かせ給ひ、此尊像を作り、御在位の如く孝養せさせ給ふ。 我朝に聖徳王出誕あるを伝へきゝて、百済国より渡さるゝなり

石華表　西門の外にあり。 もとは衡門として木にて造れるなり。

華表表題に日く、「釈迦如来、転法輪所、当極楽土、東門中心」の十六字は、寺説に云ふ、皇太子の真蹟と云ふ。 或は日く、小野道風の筆なり。 又云ふ、弘法大師なりとも云ふ。

聖徳太子・救世観音

（欽明天皇）三十二年〈辛卯〉[572]、春正月朔、甲子の夜、妃（穴穂部間人皇女）の夢むらく、金色の僧の容儀太だ艶き有り。 妃に対つて立て、之に謂つて曰く、「吾に救世の願有り、願はくは暫く后の腹に宿らん」と。 妃問ひたまふ、「是れ誰とか為る」。 僧の曰く、「我は救世の菩薩なり。家は西方に在り」。 妃の曰く、「妾が腹は垢穢なり。何ぞ貴人を宿さん」。 僧の曰く、「吾は垢穢を厭はじ。唯望むらくは、尠く人間に感ぜん」。 妃の曰く、「敢て辞譲せじ、左之右之トモカクも命に随はむ」。 僧歓の色を懐ひて躍つて口の中に入りぬ。 妃即ち驚き寤めて喉の中、猶し物を呑めるに似たり。 妃の意太ハナハダ奇として、皇子（後の用明天皇）に謂る。 皇子の曰く、「你が誕せん所、必ず聖人を得ん」。 此より以後、始て娠めること有りと知りたまふ。

（敏達天皇）十二年〈癸卯〉[583]、秋七月に、百済の賢者、韋北達人、日羅を率いて、我朝に召使、吉備海部羽島に随て来朝せり。 此の人、勇にして計有り。 身に光明有り。火の焔の如し。 ［中略］ 太子、日羅は異相有る者なりと聞しめして、天皇に奏して曰さく、「児望むらくは使の臣等に随て、難波の館に往て、彼の人為ヒトトナリを視ん」と。 天皇許したまはず。 太子密に皇子に諮して、之が微服を御して、諸の童子に従て、館に入て見たまふに、日羅、床に在て、四ヨモに観る者に望て、太子を指して曰く、「那イカなる童子ぞ。是れ神人なり」。 時に太子、粗布の衣を服たまひて、面を垢し縄を帯にしたまひて、馬飼の児と肩を連ねて居たまへり。 日羅、人を遣して指して引かしむ。 太子驚き去りたまひぬ。 日羅遥に拝したてまつるに、履を脱いで走る。 諸の大夫等大に奇として、門に出でて見るに、即ち太子と知ぬ。 太子隠れ坐て、衣を易へて出でたまふ。 日羅迎へて再拝すること両段フタシキリ。 大夫亦た驚て、罪を謝して再拝し、儀を修めて入るに、太子辞譲して、直に日羅が房に入りたまひぬ。 日羅、地に跪いて、掌を合せて白して曰さく、「敬礼救世観世音菩薩、伝灯東方粟散王、云々」、人聞くことを得ず。 太子、容を修め、折磬して謝す。 日羅大に身より光を放つこと、火の熾なる炎の如し。 太子亦た眉間より光を放ちたまふ。日の輝の枝の如し。 須臾あつて即ち止みぬ。

（推古天皇）五年〈丁巳〉[583]、夏四月に、百済の王の使、王子、阿佐等、来て、調を貢る。 領客に語て曰く、「僕聞く、此の国に、一の聖人有す。僕自づから拝覲せば、意願足んなん」。 太子、之を聞しめして、直に殿の内に引す。 阿佐驚き拝して、熟ツラツラ太子の顔を見たてまつる。 復た左右の手の掌、左右の足の掌を見て、更た起て再拝すること両段フタシキリして、退て庭に出でて、右の膝を地に着て、掌を合て恭敬して曰さく、「合掌礼拝、救世大慈、観音菩薩、妙教流通、東方日国、四十九歳、伝灯演説、大慈大悲、敬礼菩薩」。 太子、目を合して、須臾あつて眉間より光を放ちたまふ。

役行者

発心門

亥之鼻（猪鼻王子［田辺市本宮町三越］）を過ぎ、次に発心門に入る。〈先ず其の前に於て祓す。是れ大鳥居也。参詣人必ず此の門の中に入り、遥かに見遣る。心甚だ恐る〉 次に王子に参じ奉幣す。

午時許り発心門に着き、尼南無房宅に宿す。

今日の王子湯河（湯川王子［田辺市中辺路町道湯川］）、次に猪鼻、次に発[心]門。 此の王子の宝前、殊に信心を発す。

（平維盛入道は）発心門に着き給ふ。 上品上生の鳥居額拝み給ては、流転生死の家を出て、即悟無生の室に入るとぞ思召す。

発心門王子社　境内除地　禁殺生
小名発心門にありて本宮の末社なり。 社伝に祀神饒速日命といふ。

発心門鳥居　発心門廃跡
鳥居は〈柱間七尺〉発心門王子の南往還にあり、是今の発心門なり。 夫より北に折るゝ事一町許に二王堂といふ地あり、是古の発心門の跡といひ伝ふ。

浜宮王子（熊野三所大神社［那智勝浦町浜ノ宮］）に参る。〈此の所南海に向い、地形勝絶〉 那智鳥居政所を過ぎ、小川を渡ること数度、一野王子社（市野々王子［那智勝浦町市野々］）に参る。 十余町行きて、那智発心門鳥居に入る。 坂を登ること数十町、大門に入る。〈二王有り〉

等覚門・妙覚門

大峯入りの行程を修行者の心位向上の階梯に擬し、それは大峯は役行者の理想を継ぐものだとして出発点たる那智発心門の鳥居建立者に彼を戴き、行者を熊野にひき寄せるとともに、大峯は菩薩行の最高段階たる等覚門・妙覚門に位させられ、しかもその大峯には役行者三生の霊骨があるのであるから、ここに到達することによつて山臥は役行者に直接し得ると考へられたわけである。

峰入全体を成仏と関連づけて説明した今一つのものに、四門の修行がある。 これは山麓から山頂までの間に発心・修行・等覚・妙覚の四つの門を設け、これを順に通りぬけて山上に達することによって、成仏し得るとするものである。 現在でも大峰山では吉野の町に発心門、金峰神社に修行門、山上のお亀石の所に等覚門、山上本堂入口に妙覚門が設けられている。