NO.89(合併号) 1983年8月31日


●今号の目次●

1 作文 私は手を見るとき 秋本栄子
2 9.25夜間中学・日本語学級を考える集い
3 夜間中学増設運動交流集会に参加しました
4 自主夜間中学の風景
5 各地の動き
6 松戸の自主夜間中学、ただいま生徒16人
7 こらむ・えだがわから…


作文 私は手を見るとき 秋本栄子

小さいとっきからはたらいた手
おしめを洗てあかきれて血なかれた手
いつもないしょくをした手
私は料理下手です
子供もか熱におかされてこりて
ひやした手
おこてぶたった手
あとで私が泣いたこともあった
子供か学校え手をひいてつれいた手
子供かせいせきがよくてほめて頭をなぜた手
九才のときからはたらき ねむていた
きかいにゆびをはさまれて切た
私しのきたからゆび三ほんも切た手
ちんぷんかんぷです 先生いわらて下さい


9.25夜間中学・日本語学級を考える集い

私たち江東区に夜間中学・日本語学級を作る会が義務教育未修了者のための夜間中学、中国(韓国)引揚者のために日本語学級設置を求めて運動を開始してから、すでに2年半がすぎました。
この間、私たちは区議会に対する請願提出、対区教委交渉などをとおして江東区における夜間中学、日本語学級の必要性をアピールしてきましたが、区側はこれを拒否し続けています。
私たちは具体的に夜間中学や日本語学級を必要としている人たちが江東区に多数いることを示すため、またこの人たちの学習に対する切実な要求をとりあえず保障していくため、昨年5月末から自主夜間中学を自らの手で開校しました。現在、自主夜間中学には50人近くの人が「学びたい」と真剣な思いを寄せて集まっています。
このたび、次の要領で「夜間中学・日本語学級を考える集い」を開きます。夜間中学を、日本語学級を本当に必要としている人たちが江東区にも多数いることを、多くの人々に知っていただきたいと思います。そして、集まった人々の力を結集して、江東区に夜間中学・日本語学級を1日もはやく開設するよう、区当局に求めていきたと思います。

○日時 9月25日(日) 午後2時〜4時
○場所 江東区富岡区民館(地下鉄東西線門前仲町下車1分)
○内容 経過報告/夜間中学の現場から/日本語学級の今/自主夜間中学や他の夜間中学に学ぶ人の声/決議文採択、ほか


夜間中学増設運動交流集会に参加しました

去る8月27日から28日にかけて、浜名湖畔・大草荘で第2回夜間中学増設運動全国交流集会が行われました。大阪、奈良、川崎、松戸、市川、そして江東から総勢26人が参加しました。江東からは3人が出席し、自主夜間中学の様子や行政の姿勢のかたいことなどを報告しました。
松戸市も8月はじめに、行政のにえきらない態度にとうとう自主夜間中学にふみきりましたが、江東と同じような悩みを抱えています。ほかの地域はいずれも夜間中学設立をかちとったところですが、設立後もさまざまな問題解決に向かって学校や行政に対する運動が続いています。
さて、この集まりで印象的だったのは、夜間中学生や卒業生が昨年にもまして多く参加したことです。特に川崎と大阪から大勢の参加があり、26名中12名が生徒でした(夜間中学の教師は5名でした)。したがって、集まりはさながら生徒の交流会といった感じ。先生や学校に対する不満も率直に出され、結局のところ学校をつくっていくのは生徒が「お願い」ではなく「権利」として自分たちの要求をつきつけていく長いたたかい以外にない、と生徒同士がはげましあう場になりました。
時間を忘れて、話はつきることなく、ざっくばらんに、なごやかな雰囲気の中にも熱気あふれる、まさに生徒が“燃えた”集会でした。


自主夜間中学の風景

う た

木原さんは老人会で旅行に参加したことがあった。当時まだ慣れぬ浦安での生活から一歩ふみだそうということであったのかもしれない。
夜、宴会が始まると「うたをうたえ」と催促された。「うたなんかうたえない」といったら、「うたもうたえないのならくるな」といわれたという。仕方なしに「アリランでもいいか」と聞いたらそれでいいということになり、それをうたったという。
「うたぐらい覚えたい」というのが木原さんの口ぐせだ。そのためにわざわざ浦安から電車とバスを使って自主夜中に通っている。この老人会の話のあとで彼女がしみじみといった、――日本の老人はハデだね。カラオケなんかに行くしね……。

ひとの気持ち

ひとの身になって考えろとかよく耳にする。コトワザにも「ひとのふり見てわがふり直せ」とかいうのもある。“いじめっこ”への説教にはたいていこの「ひとの……」というせりふが多用される。学校にいて聞かない日がないくらい……。
相手の立場になって考えるということはそんなにやさしいことではない。山本さんがうまいことをいった。「川は渡れば深さはわかるが、人の心の深さまではわからんからね」と。なるほど、そのとおりだ。私たちは安易に相手の立場になるということを考えているのではないか。もしできるとすれば、相手の気持ちにいくらか近づくことができるだけだ。

きれいにすると恥ずかしい

自主夜中で学んでいるおばさんたちがよく口にすることばだが、若い頃でもきれいな洋服を着たり、指輪をしたり、化粧をしたりするのはたいへん恥ずかしいという。とくに外出するときやひとと話をするときなどは身につけているよけいなものはとりのぞいて、それこそ裸の気持ちになって出かけるという。
なぜか。それはただ1つ。おばさんたちの思いに共通しているもの、つまり「文字も知らないくせにそんな格好をして!」と思われるのがつらいからだという。
ここにあらわれた文字観・知識観は、おそらく近代学校がもたらしたものであろう。「学」がなければ人並みのおしゃれもしてはいけないと自らを規制するこころねは、近代学校が強いたものである。より多くの人々は自分を「無学」と読んで恥じ入ったのである。「学」があることばかりでなく、「無学」のほうがよりすばらしいという事実をひとつひとつ探りあてていくのも私たちの仕事だろう。

人間にとって必要なもの

単文を綴って表現したものをあてる授業の時に、井田さんはこんな文を書いた。
「人間が必要なものはなんでしょう。衣類でしょうか。それとも食糧でしょうか。どちらも大事だと思いますが、私は学問がいちばん大事だと思います」
そこで他の人にも聞いてみた。すると、「そんなことないよ。食糧のほうが大事だよ」と。井田さんははにかみながらこういった。「こんなに体ばかり育ったって、無学じゃ何にもならないんじゃないでしょうか」と。
しかし、「食糧だよ」という声は最後まで消えなかった。井田さんは常日頃「学問」ということばをよく口にする。いまは学問がすべてだという感じなのである。しかし彼女も、「無学」で生きてきた人生の価値を忘れているわけではあるまい。ただ「文字を知った」ことの喜びの陰になっているだけだ。


各地の動き

松戸の自主夜間中学スタート

松戸市の「自主夜間中学」が8月2日から週2回の授業を開始しました。
夜間中学設立運動を続けてきた「松戸市に夜間中学をつくる市民の会」(藤田恭平代表)が7月31日に開いた第2回集会で提案、可決されたもので、毎週火、金曜日の夜6時から9時まで、松戸駅から歩いて5分ほどの松戸市勤労会館で授業を行っています。
しかし、自主夜間中学開校までには、市当局の不当な横ヤリが入りました。「中学」という名称では会館の趣旨に合わないので貸すわけにはいかないというのです。いったい、市民が市民のために勉強するのにたかだか名称でケチをつけ、使用させないということがあるのでしょうか?
結局、自主夜間中学はいま「市民の会勉強会」という名称で10月いっぱいの会場を確保しましたが、市当局の自主夜間中学に対する態度に、私たちは怒りをもって抗議していく必要があると思います。

「登校拒否」を考える連続講演会

市川市の夜間中学設立に尽力した「市川教育を考える会」は、いま「登校拒否」を考える連続講演会を行っています。最近、夜間中学の入学者の中に昼の中学校の登校拒否児が増えているからです。
いままでに奥地圭子さん(雑誌「ひと」編集委員、教師)、内田良子さん(佼正病院心理員)の講演がありました。
登校拒否というと本人や家庭のせいにされがちですが、本当は“学校”に問題があると、現在の“学校”の管理体制のすさまじさが明らかにされました。
登校拒否児をもち、切実に悩む親や、かつて登校拒否でいまは夜間中学に通ったり卒業した青年たちを中心に、深夜まで話のつきない集いとなっています。


松戸の自主夜間中学、ただいま生徒16人

今年の8月2日から、お隣の千葉県松戸市でも自主夜間中学が開校されました。
現在、松戸市からは東京の夜間中学へ13名、市川の大洲中学校へ2名の生徒さんが通学しています。そしてこれらの生徒さんは遠距離通学のため、たいへんな苦労を強いられているのです。
松戸に夜間中学をつくる市民の会では、松戸市に公立の夜間中学ができるまで、義務教育未修了者の切実な学習要求にこたえるべく、自主夜中の開設にふみきったのでした。現在、登録されている生徒さんは16名だそうです。
訪問したときは国語、英語、数学の授業が行われる日でした。中国から引き揚げてきた張さん親子(奥さん、中学生、小学生の子どもの4人)が机を並べる姿がとても印象的でした。
またこの日は初めて英語が行われるということもあり、生徒さんのしんけんな姿、そして楽しく生き生きした目がじつにすばらしく思えました。思わず江東の仲間の様子が頭に浮かびました。
そして、授業と授業の合間は、みなさんで持ち寄った食事を輪になごやかな話題があちこちで広がり、生徒も先生もいっしょになって学校をつくるんだという空気が伝わってきました。
また、この日はもう一人、在日朝鮮人のオモニ・車さんが入学希望で見え、授業をいっしょに受けていきました。在日一世のオモニの入学第1号とか、さっそく、江東区のオモニたちの様子を話してきました。
松戸のみなさん、車さん、1日もはやい公立の夜間中学開設に向けてがんばりましょう!


こらむ・えだがわから…

今回から夜間中学・夜間中学増設運動にむけての欄が設けられました。その時々の情勢、運動の進展、または広く教育、社会全体にわたっての視点で書ければと思っています。

1 自主夜間中学

83年9月現在、全国には公立の夜間中学が34校ある。そして、約2,700人の生徒が学んでいる。しかしながら、まだ全国には推定で約140万人もの人々が義務教育未修了のままである。
この事実は、文部省が対外的にいう「義務教育普及率99.9%」「我が国には非識字者はいない」からはほとんど消されている。
日本国憲法第26条には「国民はだれでも教育を受ける権利を有する」、教育基本法第3条には「教育を受ける機会を与えられなければならない」と明記されている。
今日、夜間中学の増設が叫ばれ、各地で自主夜間中学が行われているのは、国や地方自治体がこの「教育を受ける権利」を保障するという義務を怠っていることの現れの検証なのである。