2021.9.26
楽曲エッセイ:
Down By The River/Neil Young
Banks Of The Ohio/Johnny Cash, Dolly Parton 川のほとりで起きた事件とは?

 ニール・ヤングを取り上げるのは二度目である。彼の作品は唯我独尊、どんな評も微塵に打ち砕いてしまうようなパワーに恐れを感じていた。
しかしながら、たった一度Youtubeでこの曲のスタジオライブを観てしまったのが運のツキ。その後、Youtubeを開く度に観ろ観ろと勧められるので開けてしまう。
このスタジオライブはCS&NからCSN&Yになった1970年頃だろうか、ニールのボーカルより身体全体で勢いよくリズムを刻むデイビッド・クロスビーのアクションに目が行ってしまったりする。
 この曲は彼の1969年の2ndアルバム、"Everybody Knows This Is Nowhere”*1に収録されており、歌詞の内容から"Banks Of The Ohio" のアンサーソングではないかと気になっていたものである。
"Banks Of The Ohio" はウィキペディアによると、原題は "Down on the Banks of the Ohio"、19世紀の作者不詳(通称Public Domein=P.D.)のフォーク・ソングとされている。
カントリーやブルーグラスではお馴染みの実在の事件を扱ったマーダー・バラッドで、カントリー・ミュージックの商業的第一歩と言われる1927年のレコーディング以降、多くの歌手にカバーされている。
日本でも米国で起きていたフォーク・リバイバルが飛び火し、60年代にジョーン・バエズのバージョを聴いた方が多かったようである。
この世代の方ならニールの "Down By The River" を聴けば、思い当たった方は多いと思われる。
今回、"Banks Of The Ohio" はジョニー・キャッシュとドリー・パートンのバージョンを挙げてみた。
 ジョニーのバージョンは原曲に近いと思われ、まるで事情聴取の記録を思わせる。
一方、ドリーのバージョン*2はもう少し事情が判るような歌詞が補作されている。
当時の裁判官ではないが、事の起こりは歌詞に出てくる彼が、”けして僕のものにはならない"という彼女の真意を読み取れなかったのだろうか? ナイフを突きつけられた彼女のせりふは咄嗟に出たジョークなのだろうか?
名うてのシンガー達にそのあたりを自分なりの解釈で歌いたいと思わせる、そんな曲ではないだろうか?

 そしてニールの "Down By The River" だが、これは如何様にも解釈できる彼ならではのリメイクにも思える。
筆者は冒頭の歌詞から薄っすらと殺意を感じてしまう。
難しいのは"This much madness is too much sorrow" なるフレーズである。
事件当事者の心理を想像したのだろうか?、ニールも自分が当事者になるかもしれないという脅迫観念?、あるいは妄想?なのだろうか。
ここが19世紀のフォークソングとは違う、20世紀の伝承の有り様なのかもしれない。

Banks Of The Ohio Johnny Cashバージョン

散歩しながら彼女に尋ねた
ほんの短い散歩だった
川に沿っていた
オハイオの岸辺だ

君は僕のものだ
誰の腕も絡まさせない...
言ったのはそれだけだ
川が流れていた
オハイオの岸辺だ

僕は彼女の胸にナイフを突きつけて
彼女を潰れんばかりに腕に抱いた
彼女は泣きながら、
ウィリー、殺さないで、まだ天国に行く準備なんか出来てない...

君は僕のものだ
誰の腕も絡まさせない...
言ったのはそれだけだ
川が流れていた
オハイオの岸辺だ

それから家に向かった
12時から1時頃にかけてだ
神よ、私は何をしてしまったのか?私は泣いた
たった一人の愛する女性を殺してしまった
僕の嫁にはならないと言われたから

君は僕のものだ
誰の腕も絡まさせない...
言ったのはそれだけだ
川が流れていた
オハイオの岸辺だ

Public Domein=P.D.


Banks Of The Ohio Dolly Partonバージョン( )は補作部分

(私はもし彼が話してくれるなら書き残しておこうと思い、刑務所の独房を尋ねた
彼の目から涙がこぼれ落ち、いつ、どうやって、どうして...
彼は話し始めた)

散歩しながら彼女に尋ねた
ほんの短い散歩だった
(僕たちの将来の結婚式のことだった)

(でも、彼女が言ったのは、けして僕のものにはならない...)
それを聞いて僕は彼女の胸にナイフを突きつけて
彼女を潰れんばかりに腕に抱いた
彼女は泣きながら、
殺さないで、まだ天国に行く準備なんか出来てない...

君は僕のものだ
誰の腕も絡まさせない...
言ったのはそれだけだ
川が流れていた
オハイオの岸辺だ

それから家に向かった
12時から1時頃にかけてだ
神よ、私は何をしてしまったのか?私は泣いた
愛する人を(今夜)殺してしまった
僕の嫁にはならないと言われたから

君は僕のものだ
誰の腕も絡まさせない...
言ったのはそれだけだ
川が流れていた
オハイオの岸辺だ

(主よ、私を...
私をお救いください)
川が流れていた
オハイオの岸辺だ

Public Domein=P.D.


Down By The River

僕のそばに来て
僕が君のそばに行くよ
君が隠しておく理由なんて無い
君に騙されたと思ったら、とてもここにひとりでなんか居られない

彼女なら虹の彼方に僕を引きずって行ってくれる
川のほとりで
彼女を撃ってしまった
もうだめだ、撃ってしまった

手を取り合ってここから逃げよう
狂気はやがてもっと深い悲しみに
今日という日は決して暮れまい

written by Neil Young
from "Everybody Knows This Is Nowhere"

*1
*2

関連エッセイ:
ブルーグラス回想

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