2026.1.18
TVドラマ コンバット考

 1962年〜1967年に日本のTBSテレビで放映されていたアメリカ製TVドラマである。
第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦以降のフランスにおける米軍歩兵部隊の物語である。
1962年当時、筆者は小学校1年生。
子供にテレビのチャンネルを選ぶ権利は無く、家長である父親に決定権があった時代である。
ただ、この番組は父が見ている横で一緒になって見ていたのである。
父は画面にくぎ付けになっていた。
どこの家でも様子は同じで、学校や近所の公園では戦争ごっこが勃発していたのである。
筆者は主人公のサンダース軍曹が持っている機関銃に興味津々、友達からトミー・ガンと呼ぶんだぜと聞かされたものである。
そして時々登場する戦車も忘れられない。
”昨日出て来た戦車、M41式っていうんだぜ”という具合である。
ただ、M41式は朝鮮戦争から投入されたので、このドラマの時代考証は不問である。
一方、ドイツ軍戦車はこのM41を多少改造してドイツ軍マークを付けて済ましていた事は小学生でも判った。
敗戦から17年経っているが、当時は少年向け漫画にもゼロ戦隼人や紫電改のタカなどの戦記物が溢れていた時代である。
当時の親達はどう思っていたのか判らないが、"教育的に問題がある" より、"思い出したくない" だったのかもしれない。
しかしながら、なぜ父はあんなに夢中になって見ていたのだろう?
筆者の世代は皆、同じ疑問を持っていたようで、NHKのBSで再放送が始まったとの事。
筆者はBSは視聴出来なかったが、最近になってYoutubeで視聴できる事を知ったのである。
筆者もこの歳になって初めて父が夢中になって見ていた理由が判った次第である。
日米共に人気番組で、6年間の長きに渡り制作された全152話を見た感想を記しておこうと思う。

・人間は決断を迫られる生き物である。
・どんな場面でも、あちらを立てるとこちらが立たないというジレンマを抱えている。

 主人公のサンダース軍曹やヘンリー少尉は最前線という極限状態の中で毎回、決断を迫られていた訳である。
昨年は戦後80年という節目の年、メディアは当事者の記憶を後世に伝えんと力が入っていた。
戦争を経験していない世代だけになった時、人間の想像力が歯止めになるような気がする。
"戦争の悲惨さ" を想像するだけでなく、人間は決断しなければならない時の堂々巡りをシミュレーションできるだろうか?
コンバットの152話には脚本家、演出家、監督が居り、毎回その演習だったのかもしれない。
想像力の勝負だったのではないだろうか?

 さて、152話の中から筆者が特に印象に残った4話を挙げて見たい。

・第72話 邦題:小さな回転木馬/原題:The Little Carousel
 ヘンリー少尉の部隊はフランスのある街を解放したが、2名の戦死者を出した責任を背負いサンダース軍曹は心身ともに疲弊していた。
そこに民間人の若い見習い看護婦がボランティアを申し出るが、サンダースは危険だからと追い返してしまう。
仮眠から目覚めたサンダースは彼女が簡単な食事を用意している事に気付き、チーズを勧められる。
言葉が通じないが公園にあった回転木馬に彼女を乗せ、ひと時の安らぎを覚える。
次の戦闘が始まり、サンダースは瀕死の重傷を負うが衛生兵カーターも負傷して駆けつけられない。
そこに彼女が現れ、サンダースにモルヒネを打つ。
任務が終わり担架に乗せられ部隊に戻る途中、悲劇が起こる。

・第94話 邦題:名もない者の悲しみ/原題:Cry In The Ruins
 ヘンリー少尉の小隊は市街戦でがれきに埋まった赤子を救い出そうとしている母親を目撃する。
ドイツ軍の小隊が赤子の救出を始めた事に気付き、退去を決めるが敵兵に見つかり銃撃が始まる。
ヘンリーは敵少尉に米軍は赤子の救出を邪魔せず退去すると提案するが、交渉の末、共同で救出するまで停戦と決まる。
敵味方共同作業が始まるが、赤子は見つからない。
そこに避難していた民間人が現れ、話し始める....
監督はサンダース役のビック・モローで、ヒューマニズムを主題とした回を努めている。

・第129話 邦題:降伏よりも死を/原題:A Child's Game
 サンダースの小隊はパトロール中に農家を発見、ドイツ軍が占拠していないか偵察を出す。
銃撃が始まりサンダースとリトルジョンは2名の捕虜を捕まえるが、まだ15、6の少年兵であった。
彼らは "ドイツ兵は降伏よりも死を選ぶ" と叫んだが、サンダース達は洗脳されているとにらんだ。
銃撃の様子から農家を占拠しているのは少年兵数名と判断したサンダースは捕虜の少年兵に立てこもる仲間に投降するように説得を試みさせるが....

・第135話 邦題:ひねくれ者/原題:Outsider
 ヘンリーの小隊にウェスト・バージニア出身のカーリーという補充兵がやって来た。
小隊の仲間は打ち解けようと話しかけるが、彼はまるで心を開かない。
リトル・ジョンが世間話をするが、彼は貧しい小作農民で生活苦から軍隊に志願した事を知る。
そして農民の自分は何をどう対処すべきかまるで判らないと白状した。
リトル・ジョンは彼が農作業用のトラクタのカタログを持っている事に気付き、給料を貯めてから国へ帰るつもりであると知った。
偵察中にカーリーは貯めていた給料袋を落した事に気付くが、戦闘が始まり銃撃されてしまう。
カービーは野戦病院に送られたカーリーに面会し、戦闘後に小隊の仲間が手分けして探し出した給料袋を手渡すのだが....

 ところでウェスト・バージニア州だが、北はニューヨーク州から南はアラバマ州まで2400Kmに渡って続くアパラチアン山脈の中程にある。
東海岸に沿って山が深く、農作業には適さないので初期の移民はここを避けて中西部を開拓した。
1840年代にアイルランドでは飢饉が起こり、国民の過半数がアメリカに移住したが、棲む土地はアパラチアン山中しか残されていなかったという経緯がある。
アメリカにはかつてアパラチアンに棲む貧しい人達を指すヒルビリーというスラングがあった。
こうした史実は20世紀初頭には知られていたので、135話の原題:Outsiderはかなり意味が深い。
カーリーの日本語のセリフは "おらは...." と訳されており、ヒルビリーのニュアンスが伝わってくる。

 さて、コンバットには時々ゲストスターが登場する。
・第33話 仮面のドイツ兵/原題:Masquerade ではジェームス・コバーンが米兵に変装したドイツ軍スパイを演じている。
・第92話 爆破命令/原題:Heritage ではチャールズ・ブロンソンが歴史的美術品に造詣が深い爆破係を演じ、命令された場所にそれが隠されていると知ってジレンマに陥る。
ブレーク前のスターも出演しており、大変興味深い。
・第45話 雷鳴の一夜/原題:The Pillbox ではウォーレン・オーツが負傷して命を落とす米兵役を鬼気迫る表情で演じている。 監督はビック・モロー。
・第148話 戦場のジャズメン/原題:A Little Jazz ではデニス・ホッパーが前線に送り込まれてしまった慰問バンドの若いドラマー役で登場する。

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