2003.1.26
エンニオ・モリコーネのこと

 あれは1965年、小学校4年の頃だった。ラジオから盛んに流れて来るピロロロロという奇妙な笛の音と哀愁のある口笛。子供の脳というのは本当にスポンジのように吸収が良いのだろう。しっかり脳に刷り込まれたその音楽と大人になってから再会するわけなのだが、あらためて「ああ、こんな造りだったのか」と感心してしまうことがよくある。
当時はそれが誰のなんという曲か知らなかったのだが、それが当時大ヒットした西部劇「荒野の用心棒」のサウンドトラックだったと判ったのは1995年頃、テレビの洋画番組を見てのことである。
黒澤 明監督の「用心棒」の西部劇版としても知られたセルジオ・レオーネ監督の初のイタリア製西部劇=マカロニウェスタンである。
オープニングで流れるその曲を30年ぶりで聴いて、それまで自分が知っていたいわゆる本家アメリカ製西部劇の映画音楽とは明らかに異質で、とても革新的な音楽だったんだなあと思った次第である。
ピロロロロ!!の後の ピシッ!! に続いてカ〜ン!!そしてキンッ!!という効果音が8ビートのリズムで繰り返され、そのままパーカッションとしての役割を負っているのである。
おもしろい効果音だなあと感心して映画を見ていると、ストーリーが進むにつれ、その音が何の音なのかわかるという仕掛けなのだ。
ピシッ!!は人質を拷問する鞭の音、カ〜ン!!は村の鐘の音、キンッ!!は画面には出てこないが、主人公のクリント イーストウッドが敵役とのガンファイトに備えて廃鉱の中で分厚い鉄板を切り抜いて防弾チョッキを作るシーンがあるのだが、タガネで鉄板を切る鎚音を連想させるのである。(ちなみにこの防弾チョッキを付けてガンファイトに臨むシーンは映画「バック トゥ ザ フューチャー」のパート2では劇中劇で挿入され、パート3ではパロディー化されている)
この映画音楽の作者エンニオ・モリコーネのアイデアには感心してしまった。1965年というといわゆる現代音楽の世界でも楽器以外の音を素材として用いることが当たり前になった時代ではあったが、現代音楽の音はなにやら難し気でオドロオドロしかったのに比べるとピロロロロ!!ピシッ!! カ〜ン!!キンッ!!は痛快無比である。
以前のESSAYにも書いたが、イタリア人は耳がいい?というのはこんなあたりなんだろうか?

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