2012.3.25
38年後の学園祭:

 冷ややかな雨が降る初秋の9月末。前年の同じ頃、高校最後の学園祭はアコースティックギターのバンドで締めくくったつもりだったのだが、あれから1年経つとまだ胸のどこかで何かが燻っているような感覚が忍び寄ってくる。そんな時にバンドでスライドギターを弾いていた後輩から学園祭で自分のバンドを演奏するとの知らせ。吸い寄せられるように母校に向かったのは今から38年前のことであった。
 灰色のコンクリートの校舎は、雨に濡れて一層濃い翳りをたたえ、浪人の身にはモノクロの廃墟のような塊に感じられた。それが遠くからバスドラムとベースの音が近づいてくると、モノクロの画像が少しずつ色彩を帯びはじめるように、自分の魂が覚醒されてゆくのが判った。そうだ、学園祭はこの音だ! 祭り囃子だ!
 見知らぬ1年生らしい生徒と何人かすれ違い、階段を上り、指定された教室のドアを開ける。ライブハウスよろしく、黒い紙で窓ガラスを目張りした暗闇の中で演奏は始まっていた。プログレシッブロックをやりたいと言ってオリジナル曲でベースを弾く後輩の姿がそこにあった。"In The White Morning" というタイトルであった。どこか安堵のひとときであったことを今でも良く覚えている。

 Facebookを通じて途絶えていた音信が繋がった後輩から38年ぶりのライブへのお知らせを頂いた。ステージは代官山のライブハウス ”晴れたら空に豆まいて”。”Angillous 結成35周年記念ライブ”とある。高校・大学卒業後もずっと続けていたことは嬉しい限りである。
 地下2階のドアを開けると、38年前の暗闇の中に元少年少女達が教室を埋めている。それぞれの横顔は年輪を重ねているが、どの表情もあの時のままである。演奏が始まった。38年前の学園祭のようにベースがプログレを刻んでいるが、あのときより遥かに重く、腰が座っている。そうだ、この音! 祭り囃子だ! 
 高校の時と違うのはアルコール入りということだけだろうか。白熱のアンコールはツェッペリンで締め、2ステージのタイトな演奏が終わった。 これはデ・ジャビュではない。遠い遥かな走馬灯のリプレイであった。

 ところで、このライブでおもしろい経験をした。ドリンクは生ビールを飲んでいたのだが、1曲目が終わって咽を通るビールが甘くなっていたのである。 モーツアルトを聞かせながら寝かせたワインが旨くなるそうだが、ビールにはロックの振動がよろしいようである。

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