●楽器紹介

奥多摩物語で使用している楽器について:

 私が奥多摩物語で使用している弦楽器は主に北アメリカのアパラチアン山脈地域で古くから使われてきたものである。18世紀にスコットランドやアイルランドから渡って来た移民はこの地域に住みつき(北アメリカへの移住者は最初はこの山脈に阻まれて大陸を西へ進むのが困難だった)とりあえずは北アメリカで入手可能な楽器(ギター、フィドル、バンジョー等)で故郷の音楽を楽しむことが多かった。

欲しい弦の音色を得る為に時々民族楽器を用いることがあるが、どんな民族楽器の音色も弦の材質や胴に皮が張ってあるか否か、弓や撥、ピックの種類等で大方決まってくる。柔らかい音色にはガット(羊腸)弦やナイロン弦、シャープな音には金属弦、だるい音には胴に皮を張った楽器、薬味を入れたければ「さわり」の付いた楽器等、使い分けている。



・HAMMERED DULCIMER-ハンマードダルシマ

 ルーツはイランのサントゥールと言われている。東方に伝わって中国では揚琴(ヤンチン)、西方に伝わってハンガリーではティンバロンと呼ばれる。皆ほぼ同じ形態、演奏法の楽器でおよそ1000年の歴史を持つ。もとはガット弦であったと考えられるが現在は金属弦である。北アメリカへは19世紀にヨーロッパからの移住者によってもたらされた。 アパラチアン山脈地域では"WHAMADIDDLE"、西部ロッキー山脈地域では "LUMBER-JACK PIANO"(樵のピアノ)の別名がある。(構造的にピアノの前身である)現在ではアメリカ人の間でもこの楽器の認知度は低いが、ニューエイジ系のミュージシャンが取りあげるようになっていくつかの楽器職人が制作しているようである。ここ数年、東京の上野公園や山の手線主要駅前に出没する大道芸ですばらしいバチ(ハンマー)さばきが頻繁に見られるようになった。彼等の国籍は東欧系、中国系、米国さまざまである。 私が使用している楽器はカリフォルニアのACORN MUSIC社製である。1989年、仕事でコロラド州マニトウスプリングスを訪れた際、偶然ダルシマショップを見つけ、その時は運搬が難しいので後日、通信販売で入手した。価格は$400程度〜


・MOUNTAIN DULCIMER-マウンテンダルシマ

 名前は同じダルシマでもこちらはまったく違った楽器で、ヨーロッパのツィターの流れをくみ、アパラチアンダルシマとも呼ばれる。スコットランドやアイルランドから北アメリカに渡った移住者は最初、ギターやフィドルを使って故郷の音楽を楽しんでいたが、彼等が北アメリカに住みついてから自作した楽器である。スコットランド、アイルランド民謡が弾きやすいようにフレットの並びがクロマチックではなく跳び跳びになっている。弦数は3弦、または4弦で一番高音の弦はマンドリンの様に複弦である。演奏法は机の上に置いたり膝に乗せたりし、左手は小枝でフレットの上をスライドさせたり、指で押さえたりする。右手は鳥の羽根でかき鳴らしたり、フラットピック、フィンガーピックを使う等、様々である。 私が使用している楽器はFOLK ROOTS 社製で1989年、ロスアンジェルスのMcCAVE's GUITAR SHOPで購入した。価格は$400程度〜。なお、私はネックにネジを植え込んで解放弦でサワリが自在につけられるようにしている。



・5 STRINGS BANJO-5弦バンジョー

 フォーク、ブルーグラス、マウンテンミュージックでお馴染みの楽器。アパラチアン山脈地域の人々は皆、両親や祖父母から弾き方を教わって何世代にも渡って楽しんでいた。ディキシーランドジャズやクラシック等と共に北アメリカで普及したが、ルーツは黒人奴隷とともにアフリカから伝わったと言うのが通説である。胴に革を張った弦楽器は世界各地に存在するが、現代のドラム類と共通の、革の張りを合理的に均等に締め上げるメカニズムは金属部品を多様し、楽器というよりもむしろ工業製品という色彩も強く、いかにも北アメリカらしい楽器である。



・MANDOLIN-マンドリン

 ヨーロッパでは胴の丸い形が一般的だが、アイルランド、北アメリカでは平たい形をしたフラットマンドリンが一般化した。マンドリンと言うとおとなしく流麗に演奏するのが通例だったところに、大衆音楽の世界では20世紀後半にビル・モンローが "火の出るような" 弾き方でブルーグラスを立ち上げて以降、ブルーグラススタイルのマンドリニストは後を絶たない。スポーツの世界も同様だが、弦楽器の世界も運指の速さ、スムーズさ、正確さに限界はなく、常に先人を超えるテクニシャンの登場に目を丸くさせられる。 ギターと共にその無限の進化の双壁を成しているのがマンドリンではないだろうか? 残念ながら私はブルーグラススタイルの速弾きは得意ではない。



・BOUZUKI-ブズーキ

 元はトルコ周辺の弦楽器であるが、昨今ブズーキというとアイリッシュ、スコティッシュ音楽で使われるようになったマンドラ、マンドセロと同じ、低音用マンドリンを指すようになってしまった。 私が用いているのはアイリッシュ版で、マンドリンより1オクターブ下の音域をカバーする。マンドリン族はどこかエキゾチックな風味があるのは複弦のなせる技だろうか?同じピッチにチューニングしても微妙なズレがとても豊かな音色を醸し出す。特に低音になるほどその傾向は顕著であり、性格派俳優と言えようか。



・PEDAL STEEL GUITAR-ペダルスティールギター

 歴史は浅いがカントリーミュージックに無くてはならない楽器。ブルースにおけるボトルネック奏法やハワイアンのスライドギターから発展した楽器。ハワイアンのスティールギターにペダルと膝で操作するニーレバーによって正確に音程を半音、または全音上げ下げする機構を追加したもの(ベンド機構と呼ばれる)。 左手に持ったバーを弦の上でスライドさせることで音律は滑らかに選べるが、ベンド機構によりピシッと決めることもできる。このベンド機構がそれ以前のサウンドにひと味もふた味も違う美味を持たらした功績は計りしれない。 10〜12弦が一般的で、チューニングは曲やアレンジに応じて弾きやすいように過去の演奏家によって様々試されたが、現代ではC6th、E9thと呼ばれるものに落ち着いた。ジャズ系にはC6th、カントリー系にはE9thが好まれている。 ジャズ、カントリー両方を弾かねばならない演奏家用にC6thとE9thをダブルネックにしたタイプもある。 弦の数がギターより圧倒的に多いのでフレーズによってはハープのようなも使い方もできる。  私が使用している楽器は日本で唯一のスティールギターメーカー FUZZY PEDAL STEEL GUITAR PRODUCTS社製である。
ペダルスティールは以前から欲しくてたまらない楽器であった。1987年春、奥多摩湖の小河内ダムサイトにログハウス教室をひらいていた知人のマッキー荒井氏が教室の宣伝を兼ねたお祭りを催した。そこで余興にカントリーバンドのライブがあり、ペダルスティールギター奏者、高橋 渡氏からFUZZYの存在を知った。さっそく購入したいとFUZZY社を訪れると社長の藤井三雄氏が以前に試作した10弦・3ペダル・4ニーレバーのモデルを勧めてくださり、念願が叶った。
ベンド機構はスプリングやテコの原理を応用していろいろなアイデアがあるが、50〜60年代の北アメリカ本国製のものは微妙なピッチの狂いが悩みの種だったが、藤井三雄氏の考案・製作するモデルは狂いが少ないと評価が高く、精密・精巧・高品質といった日本のお家芸が発揮されていると言える。


・KOTO-箏

 日本古来の琴は和琴と呼ばれ、古事記の中の記述や、埴輪にも琴を奏する像が見られる。現在、一般に知られている箏は奈良時代に雅楽の管弦を編成する楽器として中国、朝鮮から伝来したものである。楽器分類上は長胴ツィター系に属する。13弦を基本とし、フレットに相当する可動式の柱を動かして調絃する。演奏法は右手に爪をはめ、左手で弦を押して音をベンドさせたりビブラートを付けたりするが、シンプルゆえに目的に応じて弓や撥を用いたり応用が効く楽器である。弦は古くは絹糸だったが、現在はナイロン・テトロンも用いられる。同じツィター系のハンマードダルシマが金属弦でシャープな音色なので、柔らかい音色が欲しい時には箏を用いている。奥多摩物語では柱の弦が乗る部分の形状を工夫してさわりが付く様にして用いた。(ISO式箏)


・YAYOI TSUCHIBUE-弥生土笛

 オカリナと同じく土製素焼きの笛で、日本では縄文・弥生遺跡から出土している。穴は1個から数個とまちまちである。日本海側の弥生遺跡からは中国・朝鮮半島の「けん」と呼ばれるものと同類のものが出土している。ピッチは不正確であり楽器というよりは音具に近い。私が使用しているのは国立民族歴史博物館のお土産として販売されているもので5穴あり音域は1オクターブがせいぜいだが、ぬくもりのある音色が魅力的である。



・ANMABUE-あんま笛

 流しのあんまさんが吹く笛で、歌口となる細い切り込みを入れた細い竹を2本合わせていっしょに吹く。お互いのピッチは微妙にズレていてうなりを生ずる。映画「座頭市」ではこの笛は勝 新太郎扮する座頭市の登場を告げる重要なサウンドイフェクトになっている。昭和30年代初期、私が子供の頃には夜になるとこの音色を聴いた覚えがある。私の母親は私が言うことを聞かないと「ほら、ひとさらいが来たよ」といって脅かしたもので、座頭市の映画を見るまではひとさらいの笛と思い込んでいた。



・PAN PIPES-パンパイプ

 長さの異なるパイプを一列に並べて口で吹く原始的な楽器。パンフルートとも呼ばれる。ペルーの葦で作ったサンポーニャは有名。日本にも正倉院に同じ様式の笛の残欠が保存されており、排簫(はいしょう)と呼ばれ奈良、平安時代に雅楽で用いられた。



・SINGING BOWL-シンギングボウル

 ワイングラスやお腕の縁を指や棒でこすると自励振動を起こして美しく響く。欧米では一般的にはグラスハープとかシンギングボールと呼んでいる。チベットでは 仏教で用いられる音具として使われているようである。東京、自由が丘のチベット民具店で見つけた。単一の音程でしか鳴らないが奥多摩物語「跡」では旋律を作る為に数種類の大きさのボウルを用いた。なかには仏壇のお輪も入っている。



・HUHO-フーホー

 これは楽器ではなく灯油やガソリンを補給する際に使うただの塩化ビニール製の手押しポンプである。 振り回すとホース先端が風を切ってフーホーと音をたてる。 振り回す速さに応じてピッチが変わる。



Illustrarion By Isogawa,Shin-ichi