「日本探索走破紀行・奈良」

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 奈良県。それは日本最後の秘境だ。

 ごめんなさい、奈良のみなさん。これは一般論ではなくて、私の中の個人的な経歴に起因するものである。
 私は日本各地をオートバイでツーリングしてきたのだが、その最後の1県が奈良であったのだ。中学高校ともに修学旅行の行き先も違ったので、バイク以外でも未踏の地だった。なぜ、日本の中でも比較的中央に近い場所に位置する奈良が最後になってしまったかという疑問をお持ちの方もいるかと思う。これには深いわけがあって話せば長いことながら、ということにでもなれば少しは面白かったりするのだが、そんなに世間は甘くない。
 以前、南紀ツーリングと称して関西地方南部を走破すべく出かけた際の最初の目的地点は、三重県津市の従兄弟の下宿先であった。そこから海岸沿いを南下するコースをとった。伊勢を通り、和歌山県に入り潮岬を経由してぐるっと沿岸を走って和歌山市に入った私の目に入ったのは、淡路島行きと書かれたフェリー乗り場であった。フェリーに吸い寄せられるように乗り込んだ私の目的地は自動的に淡路島経由の兵庫県になっていた。
 要するに、行き忘れただけなのであった。

 その後、一度は北海道とか、イベント絡みで沖縄へ行こうという誘いやらで、全国各地を走りに行った私がふと気付いたのは「奈良県以外全県走破」という、事実であった。
 全県走破の野望を胸に抱き続けた私は、まとまった休みが取れたこのゴウことゴールデンウィークにその偉業を達成すべく出発した。決して大阪でオフ会が開催されるからとか昨年くらいに知り合いになった名古屋の友人達と遊びたかったから、などという理由ではない。ないんだったら。

 ということで、長年の野望を果たすべくバイクの整備をして出発したのだった。初日は東名を走っただけで時間が尽きてしまい名古屋の友人のところに押しかけて明け方まで遊んだりしたあげくそこを出発したのは朝方どころか昼過ぎだったりしたのはさておいて、一路奈良を目指す。
 未だ未踏の地、奈良。私の頭の中には、いろんな資料・文献で読んだ知識が熟成されている。奈良公園で鹿に餌付けをするだとか、奈良公園で鹿煎餅を食うだとか、奈良公園で鹿と対決するとか、とにかくもろもろの期待を胸に東名阪高速道路を走り続け、しかしあっけなく奈良県内に入り全県走破はあっけなく終了し、天理市に到着したのだった。
 奈良突入初日は観光は後回しにして、取りあえず温泉と宿ならぬテントサイトを求めて南下した。キャンプ場の端にテントを張らせてもらったので宿の確保には難なく勝利した私であったが、温泉はそう甘くなかった。なんと、奈良県温泉組合(仮称)は、規定時間以外は絶対入らせないとか風呂だけならお断りとか、私の温泉道修行の旅路を邪魔するのである。結局、奈良県温泉組合(仮称)との限りなき死闘は、5戦全敗という苦々しい敗北を喫したのだ。くそぅ。
 他にも、林道を越える際に停めた単車が倒れてミラーが折れてカウルが割れた、とかの後になってもあまりいい思い出になりきれないような切ない出来事があったりするが、それはさておき、憧れの奈良公園に到着したのだった。

 あぁ、ついに来た奈良公園。バイクを興福寺裏手の脇に停め、石段を登ると観光客の集団の陰に鹿の姿が見えた。戦いになった場合の心構えをしつつ近づいた私と対照的に、鹿どもは糞尿の中で寝続けていた。鹿の糞って丸くないんだ〜、などと能天気な声を上げるお姉ちゃんの声を聞きながら、鹿煎餅には見向きもしないだらけきった鹿どもを見つめ続けるのだった。
 それはともかく、公園内の土産物屋で売っているのが「鹿のフン・チョコレート」ばかりなのは問題だと思うのだが。ブームというかネタの旬も過ぎ去って久しいし、そんなに何種類も作るほどのことでもないだろうに。結局、他の菓子類は全く見かけられず、土産を買い損なってしまった。義理を欠いたまま、大阪へと向かわざるおえなかったのだ。
 ということで、実際に行った後も土産という点に関しては、日本最後の秘境でありつづけるのだった。奈良、おそるべし。

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