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ラブリー

written on February 16th, 1999


   私が、初めて聴いたソロの小沢の曲は、アルバム『LIFE』の曲だった。
 それまでの間ずっと大事に聴いていたフリッパーズ・ギターから、急に聴いたこの『LIFE』。
 衝撃と言うより、驚き。いや、驚きというより、「呆気にとられる」というのが正しいかも知れないような音だったのだが、その最たるものがこの『ラブリー』だっただろう。
 私にとっての小沢健二と言えば、"フリッパーズ・ギター"の、あのどこまでもゼロに回帰していく、「正常に病んだ」魂を描き出す言葉の魔術師で、かすかに醒めた笑みを思わせるシニシズムこそが小沢健二その人だったのだから、この曲を聴いたときにの「唖然」としか言いようのない感覚は分かってもらえるだろう。
 一言。
 「どうしちゃったの?小沢?」
 聴いていて、笑いが止まらなくなるような高いテンション。気持ちよく抜けきった感覚。閉塞感や、内側へ回帰していくような「フリッパーズ」の世界とはまるで違う次元にとんでしまった世界観。「ラブリー」というタイトルのままに、「らぶ」が曲全体を転げ回っているみたいで、本当に笑いが止まらなかった。
 聴いていて否応なくこちらのテンションを上げてしまうなんて、思えば凄い曲で、酷い曲だ。小沢健二のパワー全開。そして、今となると聴いていると涙が出てくる。
 小沢にとってフリッパーズ解散からの数年間の間に何があったのか。
 考えながら聴くと本当に感慨深いものがある。その間に何があったのかはまったく知らないけれど、フリッパーズ後のブランクの後の「犬〜」からここまでの軌跡を心の中で追うと、ラブリーにたどり着いたところで、堰を切ったように涙が出てしまう。
 小沢は人生を取り戻したのだと、この曲を口ずさみながらひしひしと感じたりする。もちろん、私の思いこみかもしれない。でも、この曲を聴くと「人生の回復」「生の回復」を全身で感じるのだ。もちろん、そこには私の「生の回復」という大きな経験の時に聴こえた曲がこの曲だったという、記念碑としての個人的な思い入れも多分にあるだろう。
 でも、そうなるだけの理由はこの曲自体にあるのだと思う。
 私にとってこの曲は、とても、とても、大好きな、本当に、本当に、大切な曲なのである。


All written by Hiroki YONO
<h.yono@iname.com>