〜 危急種 〜  

土左衛門


  享保の頃の江戸に「成瀬川土左衛門」という力士がいた。体格や対戦成績の詳細情報は不明だが、相当に異常な太り方をしていたらしい。

  土左衛門、辞書に掲載されている最初の意味は「水死体」、2番目は「役に立たない人」である。わざわざ説明の必要はないとも思うが、この土左衛門は、異常に太った力士、成瀬川土左衛門に由来している。彼の体型が水死体に似ていたというのだ。体型はやむを得ないとしても、役に立たないというのはあんまりである。

  彼が現役の力士であった頃から水死体呼ばわりされていたかは定かでない。しかし理由がなんであれ、200年以上を経た現代でも名前を語り継がれている力士は少ない。当時の将軍の名前を知らなくても、土左衛門の名は知っているという人の方が多いであろう。私の知り得る限りでは、国語辞典に掲載されるほど有名な力士は「雷電為右衛門」と彼、「成瀬川土左衛門」の二人だけである。因みに、時の将軍の名前は私の持っている国語辞典には載っていない。