〜 絶滅危惧種 〜  

胡散(うさん)


  胡散(うさん)臭い、と言えば誰もが「怪しい様子」と察しがつく事と思う。では胡散とは一体何であろうか。

  胡散は香辛料の一種で16世紀のペルシャで広く使われていた。口に入れると軽いトランス状態をひきおこす特殊な成分を含んでいたが、当時はこの魅力にとりつかれた人が多く、どんな料理にも必ず胡散が使用されていた。トランス状態を楽しみながら食事をしたのである。一見すると危険にも思えるが、酒に酔う感覚と同じ程度であったらしい。

  ところが、胡散を大量に摂取すると深い催眠状態に陥るという厄介な性質が判明すると、胡散を悪用する輩が後を絶たず、17世紀初頭には深刻な社会問題に発展していた。この為に胡散の臭いがする者は即ち悪人と判断されるようになり、胡散は香辛料としての商品価値を失ってしまった。その後は胡散の製造はおろか、原料となる樹木さえ栽培されることなく、現代では種子そのものが無くなってしまった幻の香辛料と言われている。胡散臭い=怪しい様子と言われる語源でもある・・・

  ・・・と、こんな物語をつい想像してしまったが、実際は胡散という物が存在していたか否かは定かでない。時代についても曖昧だが18世紀中頃の戯作には「うさんくさい」という表現が登場している。ポルトガル語の「Vsanna/ウサンナ=怪しい人」から来ているという説もある。これが正しければ恐らくは戦国時代に南蛮から渡来した言葉であろう。胡散臭い、火縄の焦げる臭いを想像するのは私だけであろうか。