●--- 第1章:Hello,World ---


その世界には、巨大な大陸があった。
その大陸にひしめく大小の独立国家は、長い小競り合いの末「UN」と呼ばれる国家連合組織を設立。UNの調停と、時には実力行使の元、危ういながらも軍事的バランスを保っていた。

・・・しかし数年前、その「敵」は突如、意外なところから現われた。

かつて某大国によって作られ、軍縮によって廃棄されたはずの、渓谷に囲まれた巨大基地。その基地が突如何者かによって掌握され、牙をむいたのである。
それはまたたく間に、無血のまま周囲の基地を次々と掌握。数ヶ月で大陸の半分近い基地が「彼ら」の支配下となっていた。

事態を重く見たUNは奪回部隊を編成、数度にわたる奪回作戦を展開したが、機械化無人部隊と思われるその部隊によって、ことごとく「返り討ち」にあっていた。
・・・しかし、なぜか異常なほど死者は少なかった。
まるで・・・殺すまいとしているかのように。

「敵」の真意を計れないまま、戦いは膠着状態に入り、3年の月日が流れていた。


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「・・・001より各機!ぼちぼちパーティが始まるぞ!ダンスの用意はいいか?」

野太い声が機内に響く。間髪をいれず、MINX各機より「レディ(準備完了)」コール。

機体ナンバー001、64th TFS・スコードロンリーダー、木虎 将大。
4小隊、17機からなる「MINX-17」をまとめあげる、 自他共に認める「恐怖の鬼隊長」、叩き上げの戦闘機乗りである。
もう50近い年齢だが、驚異的な体力と精神力、無駄のない空戦技術は安定した強さを誇る。

・・・そんな彼にも、MINXドライバーである以上、DOLLがついている。

「よーしねこちゃん、敵機が見えたら言ってくれよ〜」

強面からは想像もつかない猫なで声。会話の内容はともかく、その口調はまるで祖父と孫娘である。

「はいなのですよ☆」

001のナビゲーター、袮々子。仲間たちには親しみをこめて「ねここ」「ねこちゃん」と呼ばれる、MINX-17のマスコット的存在。
さくらよりもさらに幼いその姿。先行量産機である001の、計測機材などで一般型よりもさらに狭くなったその機内に搭乗するため、限界までのダウンサイジングがなされているのだ。頭からすっぽりとフードをかぶり、膨らんだ側頭部は猫の耳のようでもある。

それにしても・・・まさに「猫かわいがり」。そしてそれを隠そうともしない。そんな体面を気にしない潔さが、隊長の持ち味だった。
厳しいところは厳しく、しかし、その根本にあるのは優しさなのだ。厳しい訓練も、死者を出したくないという思いの顕れ。身体や機体の不調を隠して出撃しようとして、思いきりどやされた経験が、MINX-17の隊員ならば誰しも一度はある。
・・・だからこそ、彼は「鬼隊長」と恐れられつつも慕われているのである。

 

敵機6機、10時方向。距離4マイル。目視にて敵機捕捉。

「ショーちゃん!6ぼぎー、10おくろっく、4まいるす。えねみーたりほー、なのですよ〜」

小さい掌が、スイッチパネルを流れるように動く。次々とターゲットをロック、マスターアームON。トラッキングモード起動。

「えらいぞぉ、ねこちゃん!・・・001より各機!エネミータリホー!行くぞ!!」

猫なで声から、やおら野太い声。そのギャップが激しい。
001、雁行編隊から機体をロールさせてブレイク。機体が照り返しを受けてきらめく。MINXたちが、その後に続く。


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索敵レーダーがついているとはいえ、ドッグファイトとは基本的に目視での戦闘だ。ぼんやり前を向いている暇などない。
上を向き横を向き、後を向いて敵機を探す。その位置と高度、移動方向を見極め、頭の中で空戦機動を組み立て、実行する。
敵機編隊は6機。5対6のハンディキャップマッチ。状況はあっという間に乱戦になる。
乱戦状態では、味方機の援護が期待できないため、自らの空戦技術だけが頼りとなる。・・・しかし、MINXは違った。

ねここは目を閉じ、周囲を「感じ取る」。

・・・さくらおネーちゃんはあそこ。まゆらさんはあっち。ふたばさんは・・・あ、あそこだ。

彼女たち・・・「N.I.S.E.(Network&Interactive System Enhanced)-HARUNA」が搭載する相互通信機能・SSTP。
互いに味方の位置、敵機の位置を感じ取り、心で会話する。断片的な情報が共有化され、つなぎ合わされたとき、まるで鳥瞰図のように状況をつかむことができる。
以心伝心。それこそがMINX-17の的確なチームプレイを支えているのだ。

・・・せりこさんはすぐうしろで、なるさんはちょっとおくれてて、それから・・・

「・・・あわわわわ、ショーちゃん!3時方向、距離1250!ふたばさんがあぶないのですよ!」
「001より203、援護する!それまで持ちこたえてろ!」
「203より001・・・このぐらい、目をつぶってたって振り切れ・・・ます・・・よっ」
「・・・タダキチさん?ボギー、まったく離れないんですけど・・・」

203、ジンキング(回避機動)。動きが単調だ。ボギー、ぴったり食いついて離れない。

・・・フン、タダキチのやつ、あいかわらず強がりだけは一人前だな。

ニヤリと笑いながらノーズダイブ。ハイGバレルロール。速度を抑え、203につきまとうボギーを狙う。

すぐ下方に201。ボギーは201に任せ、後上方につく。二段構え。
タイミングを計ったかのように、203が左ブレイク。80°ロール、5G引き起こし。同時に201がフォックス・トゥー。至近距離。
ボギー、スプリットSで回避。

「うぐぅ〜、避けたぁ!」
「ま、そう簡単には落ちちゃくれんわな」

001は反転、パワーダイブ。ボギーを追う。


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・・・数分の後、空にはMINXの姿だけがあった。
敵機撃墜数:6機。損害:203が翼端に被弾、飛行に支障なし。任務達成率・・・100%。

「001より全機!作戦終了、RTB!ファーン基地へ帰るぞ!」
「な〜のですよ〜〜!」

 


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