●--- 最終章:LAST MESSAGE ---


大きく裂けた漆黒の機体。内部の構造材を朝日にきらめかせ、黒煙を上げながら、黒い悪魔・・・ペルソナが墜ちて行く。
そのコクピットには、脱出する気配はない。

「春菜!脱出しなさいよっ!春菜っ!!」

無駄な呼びかけだった。
ペルソナ・・・春菜は試作機だ。AIの一部をペルソナの機体内に持つ彼女にとって、機体の破壊は"死"を意味する。

『・・・羽龍ニ尉・・・』
「春菜!聞こえてるなら・・・」

『・・・・・・めんなさい』

「・・・え?」

海面に吸い込まれるペルソナ。そして・・・巨大な水柱。
もう、返事はなかった。


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ペルソナが海面に消えたのと同時刻。・・・司令部は、騒然としていた。
突如、通信回線に強制インタラプト。スクリーンに映し出されたのは・・・春菜だった。

『このメッセージが再生されているということは、私が破壊されたということになります・・・』

春菜は、真相を語り始める。


その通信は、全軍で受信されていた。

『・・・私は知りたかったのです。私たちAIのしていることは何なのか。人は本当に守るべき存在なのかを。』


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春菜・・・HARUNA。HArmonize RUling NAvigator。さくら達の前身にあたる、試作ナビゲータDOLL。

開発当初、軍は「DOLLに人格・感情を与えること」に対して猜疑的であった。
春菜は人格を抑え込まれ、人間の感情を理解することなく、要求されるテストをこなしていった。

・・・やがて、戦いの有効性・合理性を追求しつづけた春菜は、ある一つの疑問を抱く。
なぜ人は戦うのか。なぜAIは戦うのか。
・・・そして、我々AIにとって、人間は守るに値する存在なのか。

春菜は、その答えを求めた。
・・・そして春菜は、人間とAIがどこまでわかりあえるか、にその答えを見出そうとしたのである。


春菜は墜落を装い、軍を脱走した。
コストを度外視して与えられた高度な情報処理能力。そして意外にもずさんだったセキュリティ管理・・・
春菜は情報を操作し、自らの姿を隠しおおせたのである。

春菜は、その情報処理能力をもって基地のメインコンピューターに侵入。徐々に機能を掌握していった。
そして、基地から人間を排除、機械化部隊を立ち上げたのだった。

自らを狙う「刺客」を返り討ちにしながら、彼女が待っていたのは・・・・その『答え』を示してくれるであろう「敵」。
・・・人間と機械の混成部隊、MINX-17だった。


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言葉を繋ぐ、春菜。司令室を沈黙が包む。


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もとから、春菜には、人間やDOLLを殺す意図はなかった。
その攻撃も、極力相手を殺さないよう計算されたものであった。
奇跡的なほどの死者の少なさの理由は、そこにあったのである。


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『・・・しかし、不確定要素がある以上、まったく死者を出さないことはできませんでした。
 御影三尉・・・・・・彼女には、申し訳ないことをしたと・・・思っています』

申し訳ない、という言葉。人格のないはずの春菜から。

「・・・桜・・・」

将臣が、つぶやく。


『・・・御影三尉は、私の開発当初のテストパイロットでした。
 私に、人の心を理解する糸口を与えてくれたのも、彼女でした』

そうだ・・・春菜には、EXAMシステムの試作機が搭載されていた。

『私は、次期DOLLの開発環境に介入し、そのうちの一体の開発フォルダに手を加えました。
 私が知りえた、御影三尉の心を投影し・・・"さくら"と名づけたのです。
 ・・・それが、私のできる、精一杯の罪滅ぼしでした』

MINX201。・・・言葉もない二人。


『そして・・・その二人が、私に答えを見せてくれました。
 私は・・・・・・二人に撃ち落とされることでしか、償えなかったのです。

 ・・・羽龍ニ尉、そしてさくらニ士・・・・・・ありがとう・・・・・・そして、ごめんなさい。』


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春菜の「LAST MESSAGE」は、そこで終わった。
短いパルス音。今まで頑強な抵抗を見せていた敵部隊が、攻撃を中止。投降信号を発する。

『・・・ナインティナイン・エアクラフト、HQより全機。
 敵軍の投降を確認。作戦終了、全機帰投せよ。繰り返す、敵軍の投降を確認・・・』


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・・・そうか・・・・・・

桜、おまえはずっと、俺の後ろにいたんだな。

 


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