2012.12.2
ピックアップは名優:

 夕食後に相方がパソコンでYouTubeを見始めたので、最近、新作映画で話題のクリント・イーストウッドを探してみようということになり、早速出て来たのが私の好きな ”マジソン群の橋”。
望遠レンズを通してアップダウンの連続する田舎道を埃を舞い上げてやってくる一台のピックアップ。主人公が登場するシーンである。この映像を見ただけでもうたまらない気持ちになる。
年代設定は1965年なのだが、ピックアップは1960年頃のGMC(ゼネラルモータースの商業車部門のブランド)で、だいぶ年季が入っている。荷台にはカメラ機材や旅行バッグをまとめて収納できる箱が積んであり、これもだいぶくたびれた感じである。このピックアップの風体がまさに主人公、ロバート・キンケードがどんな男かを語っている。それが監督でもあるイーストウッドの狙いなのだろう。
 そう思えて今まで観て来た映画に出てくるピックアップを頭の中で検索しはじめたら、アメリカ映画には出て来る出て来る。イージーライダーでは冒頭、主人公達の麻薬取引の現場にチョッパーバイクを積んだピックアップが登場する。結末では主人公達は南部の田舎道でピックアップに乗った地元の男たちにライフルで狙われる。
 アメリカ人はこのピックアップという種類のクルマにはある種の思い入れがあるらしい。荷物を運ぶトラックには違いないのだが、場合によっては乗用車より使い勝手が良く、荷台に積んでいる物で持ち主がどんな人物かが伺い知れるのである。干し草を積んでいれば牧場の主人だろうし、子供や飼い犬を荷台に載せていれば片田舎のお父さん、サーフボードやキャンピング用のシェルを積んでいればカリフォルニアの若者かもしれない。ギターケースが見えれば、ドサ回りのカントリーシンガーだったりする。
 音楽でもニール・ヤングの1972年の名盤、”Harvest” の1曲目、”OUT ON THE WEEKEND” では、”荷物をまとめてピックアップでL・Aに向かおう” と歌われている。
そんなところから、ピックアップは堅気と自由人のような両極端をイメージさせるようだ。

 ”マジソン群” の中で特に印象深いのは、雨の中で前を行くロバート・キンケードが乗った濃緑のピックアップが交差点を左折し、続いて相手役のフランチェスカを助手席に乗せた赤いピックアップが直進して最後の別れとなるシーンである。もし、アカデミー主演ピックアップ賞というものがあるなら、この二台のピックアップは間違いなく受賞に値すると感じた次第である。

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