2013.8.15
風立ちぬ:共振現象は生命と破滅の源

 宮崎駿監督のアニメ、"風立ちぬ" を観た。
戦前、戦中に航空機の設計に携わった堀越二郎と小説家、堀辰雄という実在の人物をモデルにしたという事と、先日、テレビで”天空の城ラピュタ”を見てから宮崎駿作品に興味が湧いていた次第である。感想をまとめてみた。
 この作品のキーワードは、”共振・共鳴現象”ではないかと感じた次第である。
美しいものと出会ったときの人間の状態、それは心の共振・共鳴現象なのであろう。”自励振動”と呼ぶように勝手に心が震え出すものである。
主人公、二郎は少年の日、イタリアのジャンニ・カプローニ設計の飛行機に魅せられ、美しい飛行機を自分で設計したいと決心し、実現に向けてステップを踏んでゆく。
美しい飛行機を作りたいという情熱はそのうち周囲の人々まで震えさせてしまう。
そして、二郎は美しい女性に恋をする。一目惚れも共振・共鳴現象なのであろう。”風が立った”のであり、これは生きねばなるまい。
一方、共振現象は放置すると破滅へ向かうことを二郎は工学理論として学んでいたはずである。そのことを七試艦上戦闘機の試験飛行の失敗で身をもって知る。
そしてドイツ視察や帰国後の業務の中で、世界の所々で共振するままに破滅への道を進む動きがあることを知る。
終戦。二郎は自身が設計した戦闘機や、恐らく同じ思いで誰かが設計したであろう敵機の残骸を眼にする。

 作品の中に登場する印象深い台詞を以下に記し、自分流に解釈してみた。

”設計で大切なのはセンス、技術はあとからついてくる”
 =センスが人を惹き付け鼓舞させる=共振・共鳴の始まり。
”風が立つような飛行機だな!”
 =力学的に無駄が無く、効率が高そうな飛行機
”創造的人生の持ち時間は10年、君の10年を力を尽くして生きなさい”
 =時代は変わる、最初の共鳴者はいつしか居なくなっているものだ。今必要とされているものも、必要とされなくなる時がくるかもしれない。

 ところで、七試艦上戦闘機の試験飛行で慣性始動機のクランクを二人掛かりで廻してエンジンをかけるシーン。増速歯車の仕掛けでサイレンのような音を発するようだが、この音源、2人の男性のアカペラによるものだと思うのだが如何だろうか? これには唸ってしまった。

関連エッセイ:
昔の機械はゆっくり動いた
琴線の固有振動数

エッセイ目次に戻る