2015.1.24
音のエッセイ その3:電車のポイント通過音

 今からおよそ半世紀前、1963年は小学校2年生の国語の授業の想い出。

I先生:
 皆さん、この教室ではすぐそばを通る電車の音が聴こえるね。どんなふうに聞こえるかな?
ガタンゴトンかな? ガタガタガタンかな?
皆でどんなふうに聞こえたか口で言ってみよう。はい、言える人は!

 当時は昨今のように鉄ちゃんなる呼称は生まれていなかったが、いつの時代も子供は何がしか鉄道に興味があるものだし、自分の場合もご多分に洩れてはいなかった。
これは自分にとって、待ってました!なる質問であった。それは普段から電車が通過する時の音については拘っていたからである。
”ガタンゴトンだあ? そうは聴こえないよ” 内心そう叫んでいた。
何人かのクラスメイトが手を挙げて、どう表現していたかは思い出せないが、やっと自分の番が回って来て、得意になって次のように答えた。
”タタタタン、タタタタタタン、タタン”
この答えを聞いたI先生は、”ああ、そうですか” で終わってしまい、なにか拍子抜けしたような記憶がある。

 今、この授業の光景を振り返ってみると擬音語を学ぶ課題だったのだろう。I先生は生徒の答えに何を期待していたのだろうか?
しかしながら、当時の自分はレールのつなぎ目と通過する車輪の関係から、音がどう鳴るのか正確に表現することに拘るあまり、理科の授業と勘違いしていたかもしれない。
当時の母校の2年1組の教室は東横線に面しており、最寄りの駅構内にはポイントがあったので、駅を出発するときの複雑なポイント通過音が響き渡る場所だったのである。
もし、誘拐犯人からの電話の背景に電車の通過音が聴こえたとしたら、そのリズム、テンポ、反復回数から何線のどこの駅の近傍かを特定することは出来そうである。
鉄ちゃんを舐めたらいかんぜよ!


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