2019.9.7
楽曲エッセイ:
Pancho And Lefty/Emmylou Harris. それも親心かもしれん

 "Pancho And Lefty" はエミルー・ハリスの1977年リリースの4作目、"Luxury Liner" *1に収録。
エミルーは今やカントリーミュージック界の重鎮だが、1947年4月2日生まれの彼女は46年生まれのリンダ・ロンシュタットがそうであったように、70年代に息吹き始めたシンガーソングライター達を世に知らしめる役割を担っていたと言えようか。シンガーソングライターの方もそんな彼女達を放っておかなかったようである。彼女はFlying Burrito Bros.の創設メンバーであった
クリス・ヒルマングラム.パーソンズの眼に止まり、グラムとデュエットを組んで活動していた。
当初はグラム曲のカバーが多かったが、今回取り上げる曲は "Townes Van Zandt" の曲である。
Townesは1944年3月7日、テキサス生まれのシンガーソングライターで、1972年の自身のアルバムに収録されているが、エミルーのカバーでスポットライトが当ったようである。
1983年にはマール・ハガードとウィリー・ネルソンのデュエットのカバーでカントリーチャート1位となっている。

 Townesは名前からするとメキシコ系と思われるが、この曲はいろいろな視点で考えさせられる内容である。
アメリカ南・西部に出没した二人組の盗賊にまつわる伝説という設定で、それを語るのは恐らく今は足を洗った元盗賊、語る相手は家を捨て同じ道に迷い込もうとしている少年であろうか?
彼らを捕まえようとする当局のセリフがリフレインされるのだが、連邦と南部で対応の違いが興味深い。
そして "Pancho" はヒスパニック系のメキシカンだが、"Lefty" はアングロサクソン系の白人を匂わせており、Panchoは金と特赦に目がくらんだLeftyに "売られて" 息絶え、Leftyは生き延びたことが伺える。
多民族国家のアメリカならではの楽曲と思えるが、地理的にメキシコに接するアリゾナ、ニューメキシコやテキサス州の辺りは人種、文化のクロスロードと言えようか。
そして伝説ではなく、2019年の今でもどこかで起きているような気がする次第である。
ところでTownesは若い頃からの薬物とアルコール依存症により、1997年1月1日に52歳で没している。


Pancho And Lefty

お前は無宿者だな
気ままに調子良く暮らす
鉄のような皮膚を纏い、灯油のようにキツい息を吐いて
お前には兄弟がいるだろ
でもお袋はお前が一番らしいな
お前の告げたグッバイにお袋は泣いただろうな
夢に出てくるんだろ

パンチョは盗賊だが、まだガキだ
やつの馬は磨かれた鋼(機関車)のように速かった
ズボンの外に銃をぶらさげ
正義の味方気取り
やつはメキシコの砂漠でやられたのさ
臨終の言葉を聞いた者はおらん

連邦当局はいつかやつを捕まえると言っていたが
やつを放っておいたのは彼らの親心かもしれん

レフティはもうブルーズを一晩中歌えない
パンチョが南部のやつらに凹まされたようにレフティも同じ目に遭った
やつらがズタボロのパンチョを地面に寝かせた日、レフティはひとりオハイオに向っていた
どこで食いつないだのか誰も知らん

連邦当局はいつかやつを捕まえると言っていたが
やつを逃がしておいたのは彼らの親心かもしれん

パンチョがどうなったか? それは詩人が語ってくれるだろう
レフティは木賃宿に潜んでいた
砂漠の静寂と凍えそうなクリーブランドの地で
話はここまでさ

パンチョには貴方の祈りを
レフティはそれで救われるだろう
やつがすべき事をしていたなら今も歳をとっているだろう

南部の当局には
いつかやつを捕まえてやる
やつらを放っておくべきじゃないと言う人も居た
それも親心かもしれん

written by Towns Van Zandt

*1

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