2003.3.9
神様はこの世にまず音楽を作った?

 「八日目」という映画を観た。
妻子から離縁を申し渡された仕事中毒の男とダウン症の青年の心の交流を描いたフランス映画で、 冒頭のナレーション、「1日目、神様はこの世にまず音楽を作った」で始まる。 旧約聖書の天地創造をもじっているようだが、いや本当にそうかもしれないと思ってしまった。
それは、以前読んだ深川洋一著「タンパク質の音楽」を思い出したからである。
この著書は以前のESSAYでも紹介したが、フランスの物理学者、ステルンナイメール博士の唱える「スケール共鳴」なる現象を紹介したものである。
生物の細胞内でタンパク質が生成されるときに、そのタンパク質固有のアミノ酸の配列に従った量子的な性質の波動を伴うとのこと。その振る舞いが音楽の旋律のようだというものである。 逆に生命に音楽を「聴かせる」とその波動の振る舞いに共鳴するタンパク質の生成が活発になるとのこと。
地球が誕生して長い年月をかけて雨が降り、海ができ、アミノ酸が誕生し、タンパク質が生成され生命が誕生したと言われている。そこではあちらこちらであたらしいタンパク質が誕生する度にテーマ曲よろしく音楽が鳴っていたのかもしれない。
但し、旋律といってもその周波数は人間が認知できるよりはるかに高い周波数とのこと、次数を人間の可聴域まで下げて再生してみればということだそうだが。
タンパク質の生成に伴う音楽があるということならば、音楽は人類誕生以前から既に地球上に存在し、人間の体内にも生まれたときから存在していることになる。
誰でも経験があると思うが、ある音楽を聴いた時に胸がワクワクしたり、ジ〜ンとくることがある。 そんな時、体内では共鳴現象が起こり、特定のタンパク質が一時的に大量に生成されているのだろうか?
最近は興奮状態や覚醒状態を「アドレナリン出まくり状態」と言うように、感情の起伏は突き詰めれば脳内で発せられた体内生成物質の分泌指令と言われている。
「琴線に触れる」とはよく言ったものだ。

J.Blackingは音楽とは「人間によって組織づけられた音響」と定義したそうだが、作曲行為であれ、演奏行為であれ、聴取行為であれ、意識的に組織づけるということも理解できるが、琴線に触れるという無意識の体の反応も気にかかる。

次の様に定義してみよう。
音楽とは「意識の有無に関わらず琴線に触れる音響」である。作曲、演奏とは「琴線に触れるように音響を組織づける行為」であり音楽を聴くということは「宇宙に満ちる全ての音響の中から琴線に触れる音響を選別しようとする行為」である。

さて、ある音楽を聴いた時の胸がワクワクしたり、ジ〜ンとくるときには体内でどんなタンパク質が生成されているのだろうか?
知りたいという欲望もあるのだが、しかし、それを知ってしまったら音楽はつまらないものになってしまうであろう。
禁断の木の実は食べないでおこう。

参考文献:
深川洋一 「タンパク質の音楽」筑摩書房
徳丸吉彦 「人間によって組織づけられた音響としての音楽」 日本音響学会誌59巻3号

関連エッセイ:
楽曲エッセイ:山岳調3部作

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