2007.12.9
アパラチアンワサビ

 今朝の新聞の余録に興味深い話が載っていた。寿司好きの米国人二人が本物のワサビを極めようと日本から苗を輸入し、ワサビが育つ気候、土壌を探し、栽培に成功して米国内で販売を始めたというものである。早速インターネットで検索したら、彼らの興した会社のホームページが見つかった。そのサイトのデザインは品が良く、ワサビの歴史や効能、日本を訪ねたときの写真なども載っていて彼らの意気込みが伝わってくる。このサイト以外にも米国の"寿司事典"なるサイトにも山葵の漢字の綴り方がアニメで紹介されていたり、我らが日本の食卓常備のチューブ入りワサビの銘柄を紹介して、本ワサビ100%とか、本ワサビ50%:ホースラディッシュ50%とか、ホースラディッシュ100%などと恐れ入る内容である。
 さて、米国のワサビの栽培に適している場所であるが、西海岸のオレゴン州や、東はアパラチアン山脈のテネシー州〜ノースカロライナ州はブルーリッジマウンテンの水源涵養林だそうである(ちなみにブルーグラスの母体となったマウンテンミュージックの宝庫でもある)。日本では静岡県は伊豆・天城産が最上品と言われているが、我が奥多摩産のワサビも天城産にはかなわないが、結構上質らしい。やはり、奥多摩とアパラチアン山脈地域は気候も土壌も似ているということなのだろう。 私が初めて本ワサビを口にしたのは今から27年前、奥多摩の馴染みの民宿で、帰りがけに取れたての根っこをお土産に頂いた時のことである。子供の頃から家で使うワサビと言えば、小さな缶入の粉ワサビ(ホースラディッシュ100%)であり、本物のワサビの根っこを初めて見たのがこの時であった。 本ワサビは冷たく常に清い流れのある沢にしか生えないそうで、奥多摩でも限られた場所でしか栽培できないと言っていた(ちなみに、畑で穫れるワサビもあるが”本”ではないそうだ)。アパラチアン山脈と言っても日本のような険しい山ではなく、むしろ延々と続く丘陵地帯と言った方がよく、米国人二人も場所探しには苦労したに違いない。なにか急に彼らに親しみが湧いてきた。
 やはり舌には国境は無く、思い込んだらどこまでも・・・というのは地球上どこにでも居るのものだ。いや、舌だけではない。尺八や津軽三味線を極めんと日本に武者修行にやってくる外国人も珍しくない。日本に永住してしまう人も入れば、帰国して教室を開いて普及に努める人も居ると聞く。そのうち、日本でも外人の尺八の先生に習ったりする時代が来るのかもしれない。旨いものを食べ、旨い音楽を聴き、舌も耳も磨いておかねば。

関連エッセイ:
より好ましい刺激を求めて脳は旅する
ブルーグラス回想

エッセイ目次に戻る