2012.3.17
アンサーアルバムに見る男と女:

 今は昔、ポコというバンドがあった。1969年にデビューし、2004年のアルバムリリースを最後に活動を停止しているカントリーロックの老舗であった。数年前、彼らの"Rose Of Cimarron"という曲をカバーしている覆面バンドの画像をYouTubeで見つけたのをきっかけに、ネット検索でおもしろいことが判ってきた。
"Rose Of Cimarron"は1976年にリリースされたアルバム*1で、メンバーのラスティ・ヤング作の同名曲がヒットしたのだが、この”シマロンの薔薇”とは当時、どこかで西部開拓時代の女アウトローの事だと聞いたままになっていた。
 さて、同時代のイーグルスは1973年に"Desperado"*2なる西部開拓時代のダルトン強盗団をテーマにしたコンセプトアルバムをリリースした。お互いに3年のズレはあるのだが、ブルーグラス系の楽器を駆使しているという共通点がある。ブルーグラスとロックの人脈の交流が盛んだったあの時代のサウンドはひとつの時代のアイコンであろうか。
 当時、イーグルスにはバーニー・レドンというメンバーが在籍しており、ブルーグラス系の楽器を得意とするマルチ・プレーヤーであるところがラスティ・ヤングと共通している。そして、"Desperado"の中の”Bitter Creek"という曲は彼の作である。当時、”Bitter Creek"は西部劇によく出てくる、”水の枯れた小川”、あるいは”飲めない小川”という意味としか受け取っていなかったのだが、この度の検索で、ダルトン強盗団のメンバーであった”George Newcomb"(1866-1895)の愛称だと知ったことで、次々に点と点が線で繋がり出した次第である。
 あらためて"Rose Of Cimarron"を検索してみると、本名、”Rose Dunn”(1879?-1953?)という女性で、”Bitter Creek"の恋人で、彼を匿ったり世話をしていたとのこと。そして、ダルトン強盗団壊滅の銃撃戦の際に、彼に武器を渡すべく銃火の中を駆け抜けたとある。しかし、その時、彼は瀕死状態で、あきらめて強盗団の他の仲間に渡したとのこと。

 ということは、ラスティ・ヤング作の"Rose Of Cimarron"はバーニー・レドン作の”Bitter Creek"の3年越しのアンサーソングであったと言えよう。そしてポコの"Rose Of Cimarron"はイーグルスの"Desperado"のアンサーアルバムとも言えないだろうか? ブルーグラス系楽器を巧みに駆使するこのふたりの間柄から産まれた微妙な交流に今更ながら感激した次第である。
 さて、当の”George Newcomb"と”Rose Dunn”はどんな間柄だったのであろうか? 日本なら実在の人物はなかなか思い浮かばないが、映画なら高倉健さんを助ける緋牡丹お竜と言ったところであろうか? 自分の命は自分で守らねばならない西部開拓時代を背景に、アウトローに尽す女の生き様は多くの小説家の筆を走らせたに違いない。そして、さぞミュージシャン達のロマンをもかき立てたことであったろう。
この2枚のアルバムは私の宝物なのである。

 ところで、銃撃戦で”シマロンの薔薇”は生き延び、その後足を洗って政治家の妻となり、かたぎの一生を送ったとのことであった。

*1:"Rose Of Cimarron"
by Poco 1976


*2:"Desperado"
by Eagles 1973


*3:"Rose Dunn"

*4:George ”Bitter Creek" Newcomb

関連エッセイ:
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1969年という節目 ジム・メッシーナのこと

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