2016.1.1
年頭所感:数値目標とは? デジタルとアナログの双対関係

図1.

図2.

図3.

 昨年もフィギュアスケート選手権が開催される度に、録画による相方と娘の夕食後の反省会は賑やかであった。
昨年の念頭所感に続き、テーマは羽生結弦で2連覇と相成った次第である。
昨年12月のグランプリファイナルに於ける世界最高得点、330.43という数字はエライ数値らしい。羽生選手自身も述べていたと思うが、点数は狙って出るものでは無い。アスリートの場合、点数や記録は後から付いて来くるものであろう。彼が目指しているものは完璧な演技であり、それは彼が頭の中でイメージしているものなのであろう。
 昨年の年頭所感でも触れたように、スケートリンクを真っ暗にして彼の頭に青色LEDを付けて滑ってもらい、それをビデオ記録すれば、図2のようなホタルの乱舞のように美しい光の軌跡を見る事ができるのではないか?この軌跡を彼は自分でイメージしているのではないだろうか?
 この軌跡はアナログ情報である。アナログとは ”連続した” という意味合いがあり、ブツブツに切ってしまった数値=デジタル情報とは異なる。 刻んでしまった一個一個のデジタルデータには何の意味も価値も無いが、時刻と縦軸の高さ(=氷上からの羽生選手の頭の高さとしよう)がセットになっていれば図2のように後で軌跡として復元が出来る。
 さて、ここで例えばX秒毎に刻んだ時間と高さの積を時間の経過に沿って合算してみると図3のような面積を持った図形が得られる。数学で言う所の時間で ”積分する” という作業である。この面積は一つの数値であるが、羽生選手はこの数値を目標に置いて日々努力を重ねているのでは無いことは想像できる。やはり、図2のように連続した軌跡をいかに美しく描けるかを目標にしているのだろう。この軌跡の美しさを決めているのはX秒毎の傾きである。傾きを求めるのは高さを時間で割る= ”微分する” という作業である。
 一方、330.43点という数字は演技の中に組み入れた各々の技が持っている規定の点数と演技力、表現力のような点数の合算だそうである。 であるからプログラムを組んだ時点で点数はある程度見積もることができる。高得点を狙うには点数の高い技を多く組み込めば良い事になる。アスリートでも優勝を狙うならば戦略的な計算は必要ということであろう。

 さて、昨年を振り返ってみるといろいろな数値目標が巷を飛び交っていた。掲げたばかりの目標、達成していた筈の目標が実は達成出来ていなかったなど、一喜一憂したものである。数値目標というものは人に説明するには判りやすく、決める事が出来たら安堵ではある。しかしながら、数値目標を達成したら全て良しなのだろうか?羽生選手のようにその数値が出るに至った過程は如何だったのだろうか?
 今年はアナログ目標というものも持ちたいと思った次第である。アナログ目標とデジタル目標の両方を満足しないと何かが足りないような気がするのである。
 力学に於ける双対とは力と速度のような関係である。力(N)の方は時間の概念は無いが、速度(m/sec)の方は時間で割っている。両者の積は仕事率(Nm/sec)=(Kwに換算可能)と呼ばれ、仕事の速さという意味合いである。これを時間で積分すると仕事量=エネルギ(Nm)=(KwhやJに換算可能)になる。エネルギは補充したり消費しなければ保存される=不変なので、力と速度の比率をどういじろうとも仕事率は変らない。そういった意味から仕事率やエネルギは物事の本質に喩えられる。 逆に言えば力と速度、両者を揃って扱わないと本質には迫れないということであろう。 数学に於ける足し算と割り算、積分と微分も神社の”阿” ”吽”の狛犬も同じであろう。
 そうした意味でデジタルとアナログは双対関係なのではないか? 今年はどちらも偏り無く臨みたいと思う次第である。

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