2019.7.6
楽曲エッセイ:
Northbound Bus/Flying Burrito Bros. あてがある訳じゃない

 "Northbound Bus" は1976年リリースのFlying Burrito Bros.の5作目、“Airbone" *1の中に収録。
1975年からメンバーとなった
ジーン・パーソンズのボーカルでNickey Barclayの曲をカバーしたもので、このアルバムの中でも忘れ難い1曲である。
ウィキペディアによるとNickey Barclayは1951年生まれの女性シンガーソングライターで、70年代初期からロス・アンジェルでスタジオミュージシャンとしてスタートしたとのこと、時期からしてグラハム・ナッシュの1971年の作品、”Southbound Train” のアンサーソングと言えるかもしれない。
”Southbound” はイギリス生まれのグラハムがアメリカ建国の精神、”自由・平等・友愛” が傷ついてしまった様を強烈な皮肉を込めて歌った曲だが、"Northbound" は自分の事で精一杯というか、諦めの心模様を歌っている。
 建国の精神にも本音と建前があり、当時の"南部"は前者が通りを歩いて行くイメージがあるが、その対としての"北部"はどのようなイメージだったのだろうか? 南北戦争は奴隷解放を訴える北部とそれに反対する南部、工業化が進んだ北部と綿花に代表される農業に支えられた南部の対立と言われているが、ポピュラー音楽の世界では南部/北部のイメージは様々に歌われている。
 Nickeyの曲から伺える“北“は、夢適わず戻る故郷と言ったらよいだろうか? 70年代の日本にも徳久広司の ”北へ帰ろう” という曲があったが、無縁ではないような気がする。
歌詞からすると音楽で身を立てようと永年頑張ってきたが、もはやコンビを解消して故郷に帰ろうという、デュオかバンドメンバーの心境と言えばよいだろうか? ジーン・パーソンズがボーカルを取ると、Flying Burritos 自身、そしてカントリー・ロックの行く末を暗示しているような気がして来る。 
それでも彼が添えてくれたバンジョーやBベンダー、マンドリンには気持ちが癒される。同時代のイーグルスがアコースティックな味わいを封印してしまったのに対し、今流ならほっこりと言えばよいだろうか。


Northbound Bus

北に向うバスに乗ろう
あてがある訳じゃない
泣けてくる成り行きではあるが
涙を拭ってくれる人など居る訳ない

あれこれ思い出してみる
正悪なんか気にせず、俺達は楽しいから一緒にプレイして来た
今が潮時かもしれない
成るようには成らないさ
伊達に歳をくっている訳じゃない

お前と俺はいいコンビだった
千年続いたのかもしれない
これでおさらば、終わりにしよう
この先、なにも変るまい

労して功無し
これが正解とは思えない
なんでこうしてこの歌を歌っているんだろう?
今が潮時かもしれない
なるようにはならないさ
伊達に歳をくっている訳じゃない

北に向うバスに乗ろう
あてがある訳じゃない
泣けてくる成り行きではあるが
涙を拭ってくれる人が居る訳ない

あれこれ思い出してみる
勝ち負けなんか気にせず、俺達は楽しいから一緒にプレイして来た
今が潮時かもしれない
成るようには成らないさ
伊達に歳をくっている訳じゃない

written by Nickey Barclay

*1

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