2021.5.2
楽曲エッセイ:Amelia/Joni Mitchell 砂漠のモーテルで見た夢とは?

 1976年にリリースされたジョニ・ミッチェルの6作目 "Hejira *1" に収録。
初めて聞いたのは2019年、
デイビッド・クロスビーが2017年にリリースしたソロアルバム "Sky Trail *2" に収録されていたカバーであった。
コード進行も歌詞の内容もデイビッドらしい曲だなと思っていたのだが、最近 Youtubeでジョニ・ミッチェルを聴いていたら、あれ?これデイビッドの曲じゃない? と思ってジャケットを見直してみたら逆であった。
つまり、二人の個性は似ていたということだろう。デイビッドが初めてジョニのライブを見たときに彼女の才能に惚れ込んでしまった理由が判った次第である。

 歌詞に "jet planes"、"aviation"、"747s" と出てきたので飛行機にまつわる内容が気になっていたのだが、ウィキペディアで "Amelia" で検索したら興味深いことが判ってきた。
1897〜1937年に活躍したアメリカの女性飛行家 "Amelia Mary Earhart" の事で赤道上世界一周飛行に挑戦中、当時日本が統治していた南西諸島付近で行方不明となったとのこと。
あらためて歌詞検索してみたら、歌詞の最初と最後の節、ジョニの感性に感銘を受けた次第である。
当時、傍受された緊急信号の事をジョニは "His sad request" と表現しており、一緒に飛んでいたナビゲーターが発したものを言っているのだろう。文書化されたその記録は当時いろいろな憶測を生んだことをジョニなりに表現しているのが素晴らしい。
日航123便の御巣鷹山墜落事故でフライトレコーダーに残されていた乗務員の切羽詰まった音声記録を思い出した次第である。

 さて、デイビッドの "Sky Trail" とはジョニの "Amelia" の最初の一節 "Leaving six white vapor trails" にインスパイアされたものだったのかもしれない。
そして最後の節、"I pulled into the Cactus Tree Motel"
これはEaglesのドン・ヘンリーが "Hotel California *3" の最初の節で書いた情景ではないか!?
"Amelia" の版権は1976年9月2日となっているが "Hotel California" のレコーディングは同年3月〜8月となっているので時期的には僅かに早い。
更に両者のアルバムは同じAsylumレーベルというのは偶然だろうか?
"Cactus Tree Motel" で思い浮かぶのはグラム・パーソンズが1973年9月19日に宿泊中に亡くなったカリフォルニア州の砂漠地帯、"Yucca Valley" にあった、"Joshua Tree Inn" である。
当時、この出来事はアーティスト達の脳裏に刻み込まれたのかもしれない。

Amelia

燃えるような砂漠を車で横切っていたとき
6本のジェット機の飛行機雲が見えたの
6本の白い水蒸気の痕跡
それは天国で六角形を結んでいるように見えたわ
私のギターの6本の弦のごとく
アメリア、あれは誤報だったのよね

飛行機のエンジンのうなりは
荒々しく、そしてブルー
あなたにたどり着くために、今がスクランブルの時、そしてその季節
あなたの人生は旅行記となり、そして絵葉書のように魅力的
アメリア、あれは誤報だったのよね

人々はつぶやいてきた。二人はどこへ消えてしまったのか?
二人はそれがどこだったのか、教えようとしていた
でも、あなた自身がそこにたどり着くまでは決して判らないでしょうね
それは楽園かもしれないし、取り返しのつかない場所かもしれない
ああ、アメリア、あれは誤報だったのよね

それは今宵のこの地点だと願うわ
でもそれは受け入れ難い
彼の悲痛な緊急信号は遠回しに近づいてくれるな、という意味だったのかしら?
困っている状況を隠そうとするようなものかしら
それは禍にも福にも通じているようね
アメリア、あれは誤報だったのよ

飛行家の幽霊って?
彼女は空に、あるいは私のように海に飲み込まれたのね
彼女の空への憧れはイカロスの翼のようね
美しく、そして愚かな翼
アメリア、あれは誤報に間違いないわ

真実、それは決して受け入れられないかもしれない
我が人生は氷点下の高度の雲中に在り
そこから万物を見下ろせり
そして彼の腕の中に突っ伏せり
アメリア、あれは誤報に間違いないわ

私はサボテンのモーテルに引き寄せられ
シャワーでほこりを洗い流したわ
暫し、眠りに落ち、今まで見たこともない不思議な夢を見たの
幾何学模様の畑の上空を飛ぶBー747
夢だわアメリア、あれは夢、誤報だったのよ

written by Joni Mitchell
from "Hejira"

*1
*2
*3

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