2008.2.10
かそけき音色 ブルース・ラングホーンのこと

 昨年の夏頃からとても気になるミュージシャンが居る。Bruce Langhorne=ブルース・ラングホーンである。
今から20年くらい前、まだアナログレコード時代の渋谷のタワーレコードでボブ・ディランの "PAT GARRETT& BILLY THE KID" *1というアルバムを買った。 1973年公開のサム・ペキンパー監督の同名西部劇のサウンドトラックである。クリス・クリストファソンがビリー・ザ・キッドを演じ、彼の恋人役をリタ・クーリッジが演じている。更には付かず離れずビリーの後を追う無口の謎の男をボブ・ディランが演じるという、音楽ファンにはこたえられない映画であった。勿論、音楽はディランが担当しており、そのレコードジャケットのクレジットの中に "Guiter:Bruce Langhorne" とあるのを当時何気なく記憶の引き出しに仕舞ったのだが・・・・・

 昨年の夏に、私が高校生の時にテレビ放映されて、とても印象的で、どうしてももう一度観てみたかったピーター・フォンダ監督、主演の西部劇 "さすらいのカウボーイ" 原題 "The Hired Hand" のDVDを手に入れた。オープニングでバンジョーを "爪弾く" 音が聴こえてきた瞬間、鳥肌が立ってしまった。その乾いていてどこかもの悲しく、ディレー処理された音色は 私の琴線を激しく揺さぶったのである。当時、テレビ放映で見た時以来、まったく記憶に残っていなかったのである。物語の随所に "忍び込んでくる" 音楽は、舞台となったニューメキシコの砂漠の一粒一粒の砂同士が擦り音をたてたかのような極めて静謐な音なのである。かそけき音色というのはこういう音色だ。映画の最後のクレジットロールで " Music" の項を探して見つけたのはBruce Langhorneという文字だったわけである。

 この映画の音楽は2008年の今でもタワーレコードの "New Age" のラックに並んでいてもなんら違和感がないものである。 "New Age" というジャンルが認知されたのは80年代前半頃であり、この映画の公開が1971年であるから、ざっと10年も前にその萌芽は芽生えていたということか? このDVDの "メーキング" ではゲスト出演しているブルース・ラングホーン本人を前にピーター・フォンダが「この音楽は最近の日本の皆さんには判ってもらえるんじゃないでしょうか」と述べているところからして、フォンダ本人もこの音楽に、かそけきものを感じているのではないかと察せられる。それに対し、ブルース・ラングホーンは終止笑顔で物静かに多くを語らないところが印象的である。
 ピーター・フォンダはボブ・ディランを初め、多くのロックミュージシャンと交遊があったと聞いている。また、ブルース・ラングホーンは自身のサイトによると、初期のディランのいくつかのアルバムに参加しているとのこと。これでやっと点と点が線で繋がったわけである。ちなみにザ・バーズのデビューヒットとなったディラン作の"ミスター・タンブリンマン"とはラングホーン自身のことだそうである。

 ピーター・フォンダは音楽の面でも原石の中からキラリと光るものを探しだす鋭い眼を持っているように伺える。 それにしても、ラングホーン自身のサイトのバイオグラフィに書かれてあった「彼は子供のときの事故で指を何本か失っている」という記述に、私はう〜んと唸ってしまうと同時に、重い課題を突き付けられたような思いなのである。

*1:"PAT GARRETT & BILLY THE KID"

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