2014.3.8
デザイナーのジレンマ エンジニアのジレンマ

 ひとつ前のエッセイ "好きの理由 嫌いの理由" で、いわゆるデザイナーとエンジニアの差異に触れたのだが、その続編である。
図1だが、”エンジニア(理系)は理由があって四辺形にしているのだから凹んでなんか見えない” と思っている節がある、と述べた。
図2だが、”デザイナー(美術系)は四辺形が凹んで見えないように辺は直線ではなく少しカーブを付けておこう” と思っている節がある、と述べたのだが...

 実際のものづくりの現場で、例えば立方体の容器を製品化するケースを考えてみよう。
デザイナーは面が凹んで見えないように立方体の全ての面に僅かなカーブを付けたいと願った。しかしながら僅かなカーブを付けるには精巧な工作が必要でコストが掛かってしまう。 デザイナーはここで ”凹んで見えない” と ”コスト” の間で悩む事になる。
 次に、ある装置を設計するケースを考えてみよう。
図3のように、例えば発電所のように燃料を入れると結果として電力が出てくる装置を考えてみよう。
燃料と電力はどちらもエネルギに換算できるので、入れたエネルギと同じエネルギが出て来たら効率は100%ということである。しかしながらそれは直線Aのように理想(理論)であり、現実はBのようにカーブしていて、入れたエネルギよりも出てくるのは目減りしているものである。 この目減りする分はエネルギがどこかで漏れているという意味で、漏れを減らすには精巧な仕組みにすれば良いのだが、コストが掛かるものである。 エンジニアはここで ”効率を直線に近づけたい” と ”コスト” の間で悩むことになる。
ここで、デザイナーとエンジニアの悩みを整理してみると、

・デザイナー:カーブを付けたいと思うとコストが掛かる
・エンジニア:直線でありたいと思うとコストが掛かる

カーブの具合は半径の大小で表す事ができるが、これをひっくり返して曲率=1/半径で表すと、直線というものは半径が無限大=曲率がゼロに近いから、

・デザイナー:カーブを付けたいと思うとコストが掛かる
・エンジニア:半径が無限大のカーブでありたいと思うとコストが掛かる

と言い換えることができる。

 直線と言うのは頭の中で思い浮かべる理論的なものであり、現実の世の中には存在せず、世の中にはカーブしているものならいくらでも存在しているのではないだろうか?
デザイナーもエンジニアも現実に存在するカーブの具合とコストとのジレンマを抱えているところは全く同じように見える。 ここが理解できれば仕事上でお互い納得しあえるのではないだろうか?

 さて、ここでカーブと直線は図4のように双対の関係=双曲線なのである。
どのあたりで直線と見えるか、カーブしていると見えるか、デザイナーもエンジニアも、この双曲線の上をジレンマを抱えつつ行きつ戻りつしているのであろう。
そして図5のように、どちらも努力しただけの甲斐はあるのではないだろうか?
お釈迦様はそれを見ながらモナリザの如く微笑んでいらっしゃるのではないだろうか?

図1
図2
図3
図4
図5

関連エッセイ:
双曲線と黄金比の扱い手
好きの理由 嫌いの理由
年頭所感:未来予想図
風立ちぬに見る双対の関係
年頭所感:双対ということ
論理脳とゆらぎ脳

エッセイ目次に戻る