2022.9.30
楽曲エッセイ:
Kind Woman/Buffaro Springfield
Hot Burrito #1/Flying Burrito Bros. 艶歌二題

 今ではカントリー・ロックのクラシックとなっている2曲をとりあげようと思う。
前者はBuffaro Springfieldの3作目=ラストアルバムとなったLast Time Around *1に収録、後者はFlying Burrito Bros.のファーストアルバムThe Gilded Palace of Sin *2に収録されている。
この2曲はそれぞれ1968年の3月と11月に録音されており、ロック・ミュージシャンがカントリー・ミュージックを取り上げ始めた時期である。
ちなみにThe Byrdsが取り組んだ
Sweetheart of The Rodeoも同年の3月〜5月に録音されている。
アイデアは同じでも書かれた曲は様々であり、本家カントリー界のマナーに倣うもの、シンガー・ソングライターとして私的なニュアンスで臨むもの、歌舞伎の様に斜に構えたパンク調など、楽しみは尽きない。
こうしたニュー・ウェーブは数年遅れて日本でも見られ、森進一が吉田拓郎の曲を歌ったり、アリスの堀内孝雄のように艶歌の道に進んだ者も居た。
この2曲だが、歌詞、コード進行、アレンジはオーソドックスなカントリー、日本なら正調艶歌と言えるかもしれない。
どちらもペダル・スティールギターがムードを盛り上げている。

 歌詞を見てみると、どちらも男が女を口説いているシチュエーションである。
ラブ・バラードに良く見られる決めセリフが繰り出される。

Kind Woman

君を好きになって当然さ
時代遅れのセリフかもしれないけど...
君に一目惚れだと悟られてしまったみたいだね

今夜はダメなのかい?
君の瞳がそう言っている
今宵、僕を一人にしないで
OKと言って欲しい

君は年寄りから聞いたそうだね
恋に歳は関係ないって
でも今はこう言うんでしょ、"惚れた相手次第"

今夜はダメなのかい?
君の瞳がそう言っている
今宵、僕を一人にしないで
OKと言って欲しい

written by Richie Furay
from "Last Time Around"

 この曲には二つ引っ掛かるところがある。
まず、"惚れた相手次第" の部分なのだが、こう言われた相手の女性はどう感じるか?
一目惚れだから惚れられた側が主導権を握っているというニュアンスなら女性によってはカチンとこないだろうか?
そして曲名だが、Kind Of Womanの略だとすると "好みの女" というニュアンスになる。
すると、どうも2行目にあるように前時代的なニュアンスを感じてしまう。
作者のリッチー・フューレイは艶歌調に少しだけひねりを加えたのだろうか?
彼はBuffaro Springfield解散後にPOCOを立ち上げ、この曲のリリースから4年後の1972にA Good Feelin' To Knowでまたしても "時代遅れのセリフ" を使っている。
それが理由かどうか判らないが、この曲は彼の期待に反して大ヒットには至らなかったそうである。どこか理屈っぽいのかもしれない。
一口に艶歌調と言っても言葉は難しいものである。


Hot Burrito #1

君はとても素敵だ
でもそれだけじゃ温もりの夜は過ごせない
君が今していることを教えてあげたのは僕だもの

やつは君にぞっこんだ
その手に君を抱きよせるかもしれない
でも、そうさせたのは僕のせいだ
僕がそうする筈だったのに

あの時、僕は君にどんどん堕ちて行った
誰も知らない、見られてもいない
君が泣いたこと憶えてるかい?

僕は君のおもちゃ 元カレさ
でも君でなくちゃダメなんだ
いや、嘘じゃない
僕がそんな男じゃないってわかるだろ。

written by Chris Ethridge & Gram Parsons
from "The Gilded Palace of Sin"

 こちらも星の数ほどありそうなセリフだが、このメロメロ感に歯が浮いてしまいそうである。
シンガー・ソングライターの対極にあるような決めセリフと言ったらよいだろうか?
共作者のグラム・パーソンズはカントリー・ミュージックの本質を "酒と泪と男と女" と見ていた節があり、この曲のYouTubeを見ると艶歌業界と狂信的なファンに向けたパロディとも見える。
そして、"Kind Woman" の理屈っぽさは一切無い。
当時はロック、カントリー系両方のラジオ局から無視される状況だったそうだが、彼の死後、年々カバーするアーティストは多くなり、90年代に入るとトリビュート版がいくつもリリースされ、今やスタンダード・ナンバーになっている。
パロディは永い年月を経るといつしか本物に変化して行くものなのかもしれない。

*1

*2

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