2022.11.14
Western Edge 西の果てにかぶく


 カントリー・ロック元年とはいつだったのか?
諸説あると思うが、筆者は1967年、Byrdsの4枚目のアルバム、"Younger Than Yesterday"*1 に収録された
クリス・ヒルマン作、"Time Between" とすると今年で55年になる。
以前のESSAY 年頭所感:Byrdsによせて フォーク・ミュージックの轍で、
"カントリー・テイストだが湿度のあるナッシュビル風味ではなく、からっとした西海岸を感じさせる" と書いた。
そして1968年に6枚目のアルバム、"Sweethert Of The Rodeo"*2 がリリースされ、彼らは古いカントリー・ミュージックを取り上げたのだが、商業的な成功は得られなかった。
1969年、クリスとグラム・パーソンズは新しいバンド、Flying Burrito Brothersを立ち上げ、自作曲を世に問うたが、ラジオ局はどこも取り上げなかったと言う。

 あれから半世紀が過ぎた2022年10月、カントリー・ミュージックの聖地ナッシュビルにあるカントリー・ミュージックの殿堂博物館は、西の果てに生まれたカントリー・ロックの企画展示を始めた。
正直なところ、あれは一過性のブームであり、もはや風化してしまったと思っていた。
そして、ナッシュビルは永遠にカントリー・ロックについて語らないだろうと思っていたのである。
ところが、展示の紹介文によると、そのDNAが現代の若い世代に受け継がれていると言う。
産声を聞いてから一つの音楽史として語られるまでになった時代に筆者が立ち会えた事は大きな喜びである。

 展示の一部を紹介した写真にはFlying Burrito Brothersがデビュー当時に着ていた "ヌーディースーツ" が見える。
"ヌーディースーツ" とはカントリー歌手が身に着けていたキンキラキンの刺繍を施した衣装で、それをパロディにしようというグラムのアイデアらしい。
日本の演歌歌手の煌びやかな着物や相撲の化粧まわしと言えばよいであろうか?
しかし、グラムのスーツには大麻の葉が刺繍されており、カントリー・ミュージックが生まれ育った南部の人達が見つけたら、映画、イージー・ライダーのように袋叩きにされるようなものである。
デビューアルバム "The Gilded Palace of Sin"*3 のジャケットではこのスーツを着て彼らはポーズを取っているのだが、真っ青なスーツを着たクリス・ヒルマンのどこか浮かない顔が笑える。
そして彼らの背後に写る "ほったて小屋" は昔の野外トイレらしい。
筆者はこのアルバムタイトル、"金箔張りの罪深き宮殿" とは堕落したナッシュビルの比喩ではないか?と感じていた次第である。
堕落とは一部の熱狂的なファンだけを相手にしてお決まりの素材を使いまわして提供する閉鎖的な業界という意味合いである。
 カントリー・ミュージックは1840年代の飢饉で国民の半数が移住し、東部から南部に跨るアパラチアン山脈周辺に棲みついたアイルランド系移民をルーツにする。
林業や炭鉱で生計を立てる事は出来たが、農業には適しておらず貧しい生活を余儀なくされてきたとの事。
彼らは "ヒルビリー=田舎っぺ" と揶揄され、カントリー・ミュージックはヒルビリー・ミュージックと呼ばれていた時代があった。
南部はフロリダ産まれでジョージア育ちのグラムは、白人の内なる差別を感じ取っていたのかもしれない。
グラムの表現は今流のパンクと言えるかもしれない。
歌舞伎も元はかぶく〜傾く〜斜に構えるであり、隈取りのメイクや誇張した身振り、セリフはパンクと通じるところがあるように思う次第である。

以下、企画展示の紹介文の和訳である。


 一体誰がバンジョーやスティールギターがロックンロールに起きた革命の火付け役になると、あるいはL.A.ロッカ―達がカントリー・ミュージックに新しいファン層をもたらすと予想できたであろうか?

”Western Edge 西の果て”:
 カントリーやブルーグラス、フォーク・ミュージックの要素を取り込み、ポップスやロックサウンドに活力を与えた、そうした先見の明を持ったシンガー・ソングライターやミュージシャン達を通してロス・アンジェルス・カントリー・ロックのルーツとその反響を辿るものである。

 地方のナイトクラブや深夜のジャムセッションによって育まれたフュージョン・ミュージック、"カントリー・ロック" はポピュラー音楽に永遠のインパクトを与えた。

 展示は、Byrds, Buffalo Springfield, the Flying Burrito Brothers, Poco, Eagles, Emmylou Harris, Nitty Gritty Dirt Band, Linda Ronstadt他、 1960〜70年代にロックン・ロールのリズムやスピリットとカントリーやブルーグラスの楽器やハーモニーを融合させた新しいサウンドで成功した様々な人物、 そして供に栄えたロス・アンジェルスのレコーディング産業について掘り下げるものである。

 こうした先駆者達の貢献は、一度はアメリカの伝承音楽に向き合いインスピレーションを得て来た次世代のロス・アンジェルス・ルーツ・ミュージックの担い手、
the Blasters, Rosie Flores, Los Lobos, Lone Justice, Dwight Yoakam 達に及んでいる。
ハード・エッジ・ホンキートンク、メキシカン・フォーク、ロカビリー、パンク・ロック等、それらをブレンドさせようとするこうしたアーティスト達。
そして未来のカントリーやアメリカーナ世代のアーティスト達にインスピレーションを与え続けるカントリー・ロックの先人達も一緒に進もうとしている。

”Western Edge 西の果て”は City National Bank* が提供します。

期間は2022年10月〜2025年5月まで

*:City National Bankは1954年にロス・アンジェルスはビバリー・ヒルズに創業し、現在カリフォルニア州全域をカバーする銀行だそうである。
恐らく映画、音楽ビジネスの発展に大きく関わって来たと思われる。


*1:"Younger Than Yesterday" 1967

*2:"Sweetheart Of The Rodeo" 1968

*3:"The Gilded Palace Of Sin" 1969

関連エッセイ:
年頭所感:Eaglesによせて Two side to Country Rock
楽曲エッセイ:Kind Woman/Hot Burrito #1 艶歌二題
年頭所感:Byrdsによせて フォーク・ミュージックの轍
Pocoによせて カントリー・ロックの轍
人物エッセイ その6 Souther Hillman Furay考
人物エッセイ その5 Gram Parsons考

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