2020.6.13
楽曲エッセイ:
Take It Easy/Eagles
A Good Feelin' To Know/Poco 明暗は別れた?
前回に引き続きEaglesとPocoをとりあげようと思う。いずれも両バンドの看板曲である。
レコードデビューはPocoが1969年、Eaglesが1972年で、後者は年齢的にも2〜3歳若い世代である。
いずれもカントリーロックのジャンルに括られているが、どちらもEagles印、Poco印がクッキリしている。
ファンもEagles派、Poco派、どちらも好きという方も多いのではないだろうか?
白黒はあまり点けたくないのだが。今回は明暗について記してみたいと思った次第である。
Eaglesの"Take It Easy" は1972年5月リリースのデビューアルバム*1に収録、2月レコーディング。
Pocoの”A Good Feelin' To Know” は1972年11月リリースの5作目*2 のアルバムタイトル曲、6月レコーディングと同時期である。
前者はEaglesの創設メンバーであるグレン・フライとデビュー前に同じアパートで生活していたジャクソン・ブラウンの共作、後者はPocoの創設メンバーであるリッチー・フューレイ作となっている。
両者はコード進行もキーも違うがテンポが殆ど同じで、どちらの曲も途中から入れ替えて演奏してもなんら違和感が無いというおもしろい関係にある。
そういうネタはクレイジー・キャッツがやっており、グッチ裕三もやった事があるかもしれない。
さて、認知度という点ではやはり"Take It Easy" に軍配が上がるのではないだろうか?
”A Good Feelin' To Know”も近年の同窓会ライブでは観客総立ちのお約束ナンバーになっているのだが。
明暗もいろいろな視点があるが、サウンドは"Take It Easy" は”A Good Feelin' To Know”より透明感があり、さらっとした感じがする。両者の比較をしてみたいと思う。下表参照
アイテム |
Take It Easy |
A Good Feelin' To Know |
プロデューサー |
Glyn Johns(イギリス人) |
Jack Richardson(カナダ人) |
レコーディングエンジニア |
Glyn Johns |
不明 |
レコーディングスタジオ |
Olympic Sound Studio London |
不明 |
マスタリングスタジオ |
Mastering Lab. L.A. |
不明 |
楽器 |
Aギター、Eギター(Bベンダー)、Eベース、ドラムス、5弦バンジョー |
Aギター、Eギター、Eベース、ドラムス、ペダルスティールギター |
イフェクター Aギター |
ダブリング? |
無し |
イフェクター Eギター |
無し |
ディレー有り、リバーブ無し
ハモンドオルガンに聴こえるのはペダルスティールギターをレズリースピーカーに通したもの
|
ハーモニーボーカル |
ダブリング+微かなリバーブ?
3パートコーラスはレフト、センター、ライトにパンを分離 |
リバーブ無し
3パートコーラスはレフト、センター、ライトにパンを分離
|
レーベル |
Asylum |
Epic |
こうしてみると使用楽器やハーモニーボーカルの扱いは良く似ているのだが、"Take It Easy"の透明感やさらっとした感じはどうもダブリング?や微かに掛けたリバーブ?のような気がするのだが...
ダブリングが出て来るのは1970年、CSN&Yの "Deja Vu" 辺りと思われる。当時のレコーディングエンジニアの間ではどう呼ばれていたか判らないが、ステージ用のイフェクターが市販されるようになってからの呼び方かもしれない。僅かにディレーさせた音と元の音をパンを左右に振って配置する。”コーラス”とも呼ばれるが、ディレーの遅れ加減やパンの振り方で感じが全く違ってくる。同じパートをユニゾンで歌ったり演奏したときに音に潤いや広がりが出て来ることは良く知られていたが、ポール・マッカートニーは多重録音で一人でやるのが得意だったようで、これを使えば1回の録音で済むことからミュージシャンの間でも欲しいという声が上がっていた機能である。
対する”A Good Feelin' To Know”はドライでストレートな音作り、ペダルスティールギターをレズリースピーカーに通したハモンドオルガンサウンドと相まって60年代を憶い出させる。
3作目のライブアルバム、"Deliverin'" を聴いた時はライブパフォーマンスの高さに感心したが、スタジオ録音でもライブの音と差を付けない狙いなのだろうか?ベンチャーズやビートルズの初期の頃は多重録音という発想も器材も無く、自然とそうなっていたのかもしれない。いわゆる一発録りである。
ウィキペディアによるとEaglesのグレン・フライはプロデューサーのGlyn Johnsと意見が別れたそうだが、どこを気にしていたのだろうか?
Glyn Johnsはローリング・ストーンズ、レド・ツェッペリンのアルバムでエンジニアを務めており、彼に依頼したのはアサイラムレーベルのDavid Geffenだったとのことだが、この布石も気になる。
Eaglesはカントリーロックから踏み出てグランドファンク・レイルロードのような音も出せるのを聴いて、反射的にブリティッシュ勢の音が脳裏をよぎったのだろうか?
グレン・フライはグラム・パーソンズの熱烈なファンだったそうで、彼が居た頃のByrdsやFlying Burrito Brothersのサウンドを聴いてきたようだが、Pocoも気にしていたことは間違いないであろう。
世に出た"Take It Easy"は先輩達とは明らかに違う。Glyn Johnsの狙いがこれだったのか?
Glyn Johnsは間奏で被ってくるバーニー・レドンの5弦バンジョーを”2倍速でくるなんて狂気のアイデア”とコメントしているが、この流儀はバーニーの出自であるブルーグラス界ではブレークダウンと言われる。若い世代の演歌に津軽三味線が被ってくるのに似て粋な感じがする。
若いブルーグラッサーがカントリーロックと交流し始めた頃だが、5弦バンジョーも使い方を間違えればそっぽを向かれるリスクもあり、Eaglesに ”してやられた” という感じではないだろうか?
もうひとつ気になるのはアコースティックギターの扱いである。コードストロークであるところは同じだが、”A Good Feelin' To Know”はバックで鳴っているという感じに対し、"Take It Easy"の方はイントロのエレキの最初のストロークの余韻に続いてアコギが浮び上がると言う、阿吽の呼吸を感じる。
これは楽器同士の音の重なりを避けて色の濁りを抑える配慮ではなかったか?
グレン・フライはこれとは違うサウンドを思い描いていたのだろうか?歌詞に、”上手く行くかどうかなんて迷ってないで” とあるが、今頃、彼岸では明暗のどちら側に居るのだろうか?
いずれにしてもEaglesの続くアルバム、"Desperado"でも踏襲されたところも見ると、グレン・フライはまんざらでもなかったのかもしれない。
一方、Pocoのラスティ・ヤングもバンジョーを駆使しているが、”A Good Feelin' To Know”ではペダルスティールに徹している。そしてPocoデビュー時から聴こえていたハモンドオルガンサウンドは彼のアイデアらしい。しかしながら筆者はこの曲ではノーマルなスティールは外せないがハモンドは無くてもいいかなと感じる。
スティールギターを弾いている姿は見えるが、”ハモンドオルガンが居ない!” はライブ受けはする。ラスティはステージでノーマルなスティールとハモンドを切り替える早業が得意だったようだが、このアルバムを最後にハモンドは聴こえなくなった。
”A Good Feelin' To Know”はカナダ人のJack Richardsonのプロデュースだが、同郷のゲス・フーをプロデュースした事でも知られている。RichardsonはPocoのこのアルバム以降の3枚を手掛けているのだが、Eaglesを聴いて思う所があったのだろうか?
そしてEpicとの残り3枚のアルバム契約を残したまま、次の6作目を最後にリッチー・フューレイは脱退してしまう。
Take It Easy
積み荷を降ろしにトラックを転がそう
未練な女は7人だ
4人は本気で、2人は浮気
1人はただのダチだって
深く考えない!
調子に乗ってタイヤを鳴らすな
いまのうちにたばこに火を着けて
理屈は止めよう
考え込まずに俺の位置を決めるんだ
アリゾナはWinslowのコーナーに立って
いい眺めだ
俺を見つけてフォードのフラットベッドのお姉ちゃんがスローダウンだ
カモン ベイビー! はっきりしてくれ!
その気があるならこっちは乗るぜ!
ここで二度と合えないんだから
上手く行くかどうかなんて迷ってないで
さあ開けてくれればよじ登るぜ!
深く考えない!
written by Jacson Browne & Glenn Frey
from "Eagles first"
"積み荷" とは過去の女達のことだろか?
フラットベッド:荷台に煽り戸や囲いの無いトラックのタイプで重機や建設器材等を載せる。あまり婦女子が運転するものではない。
ジャクソン・ブラウンは歌詞の1節まで作りかけていたが、2節以降をグレン・フライが仕上げたとのこと。ここから場面はヒッチハイクを思わせるが
お姉ちゃんはガテン系というイメージが涌いて来る。
road〜load、corner〜Arizona、Lord〜Fordと韻が小気味良い。
A Good Feelin' To Know
人恋しいとき、いつも家に帰れば君が居る
そして、辛いことも忘れる
そんな時代遅れのセリフが心の底で燃えている
そして、その通りの家に居る
素敵だ
この気持ち
なんていい気分
誰かが君を想っているなんて
コロラドの山並みが見える
君から遥か空の下
嬉しくて涙が出そうだ
written by Richard Furay
from "A Good Feelin' To Know"
冒頭のセリフは男性が女性にプロポーズするときに使われるそうだが...
これはそんな頃を憶い出しているのかと思って聴いているとリフレインのラスト、 "Somebody loves you " が引っ掛かる。これはオチなんだろうか?
ベテランの奥さんだったら、”誰かって誰よ!? いい気分で良かったこと!” ?
残念ながらアルバムセールスは芳しく無くリッチーもがっかりしていたらしい。
1989年の創設メンバーによる再結成アルバム "Legacy" でもリッチーがオープニング曲、"When It All Begin" で、”ライブでGood Feelin' To Knowを皆で合唱したね” と歌うのを聴けば彼の思い入れの深さが伺える。
*1
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*2
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