2024.1.21
楽曲エッセイ:
Desperado/Eagles. ダイアのクイーンは引くんじゃねえ

 1973年リリースのEagles、2作目のアルバムのA面ラストである。
このアルバムはウィキペディアによると、グレン・フライが2作目はコンセプト・アルバムを、と思っていたところに、ジャクソン・ブラウンが自身の21歳の誕生日にプレゼントされたと言う西部開拓時代のガン・ファイターの写真集をメンバーに見せたところ、アイデアが次第に具現化されて行ったとの事。

 この時代は西部劇のヌーヴェルヴァーグでもあった。
1969年の"Butch Cassidy and the Sundance Kid" 邦題:明日に向かって撃て。
 ポピュラー・ミュージックがこれに感染したのは1970年にByrdsがリリースした9作目のアルバム、"Untitled" だったように思う。
ここには "Gene Tryp" なるブロードウェイ・ミュージカルのために書いた素材の中から4曲が収録されており、カントリー・ロック・ミュージカルだったそうである。
ノルウェーの劇作家 "Henrik Ibsen" 作 "Peer Gynt" をモチーフに、舞台を19世紀のアメリカ南西部に移したものと言われている。
 続く1971年には俳優ピーター・フォンダが監督、主演した"Hired Hand" 邦題:さすらいのカウボーイ。
 ついで1973年にはサム・ペキンパー監督の"PAT GARRETT & BILLY THE KID"
クリス・クリストファソン他、リタ・クーリッジ、ボブ・ディランらミュージシャンがキャスティングされ、サウンド・トラックもディランが担当している。

 恐らく、グレン・フライも感染し、また感染させた重要人物と思われる。
この2作目のアルバムから、ドン・ヘンリー作詞、グレン・フライ作曲のコンビが生まれ、後々、数々の名曲を世に送り出してゆく事になる。
明確なコンセプト所以か、Desperadoは後世に残るスタンダード・ナンバーとなった。
リンダ・ロンシュタットを始め、カーペンターズや多くの歌手がカバーしているが、感傷的なバラードというだけでなく、歌詞にその理由が隠されているように思う。
カバーする歌手は西部開拓時代という背景をいったん白紙にして自分の解釈を込めていつの時代にも通じる普遍のバラードとして歌っているように思える。
今回は、原曲の持つ西部開拓時代の色合いを再現すべく訳詞してみた。
この歌詞から伺えるのはこんなシーンである。

 ニュー・メキシコの砂漠の中の小さな街にあるサルーンでトランプに興じるアウトロー達。
彼らは昼間から酒を飲みながら片隅で小さくなってテーブルを囲んでいる。
それを離れて眺める一人の老保安官がつぶやく。

Desperado

ならず者
まだ目が覚めんか?
いつまで堀の上で突っ張ってんだ?
頑固な野郎だ
てめえなりのワケがあるのか知らんが
てめえにとっちゃ上手い手かも知れねえが
いつか痛い目に合うぜ

ダイアのクイーンは引くんじゃねえ
そいつは隙あらばお前を叩きのめす
なんたってハートのクイーンが一番よ

てめえのテーブルの上に並んだ手は俺にとっちゃ儲けもんだ
けれどてめえは手に入らないものばかり欲しがる

ならず者
もう若くない
痛みと飢えに耐えかねて家へ戻るんだろう
自由だ、自由だなんて言っとるが
ひとりぼっちでブタ箱の中を歩き回ってるのと変わりねえ

冬の寒さはこたえるだろ
雪も降らねば陽も射さねえ
昼も夜も区別がつかねえ
浮き沈みなんて忘れちまったか?
おもしれえ事なんかこれっぽっちもねえ

ならず者
まだ目が覚めんか?
堀の上から降りて戸を開けてみるんだな
外は雨かもしれねえが、虹が出てるかもな
愛ってやつを受け入れて見るんだな
手遅れになっちまう前に

written by Don Henley, Glenn Frey
from "Desperado"

*1

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